sharp06米半導体大手クアルコムと次世代パネルの共同開発を決めたシャープ。両社が開発する新型パネルには経営再建中のシャープにとって“虎の子”といわれる液晶技術「IGZO(イグゾー)」が応用される。この新技術で難局の打開を目指すが、IGZOの基本特許は科学技術振興機構(JST)が保有し、韓国サムスン電子などにもライセンス供与。「IGZOは1、2年で陳腐化する」(業界関係者)との指摘もあり、起死回生を図るための〝切り札〟としてはあまりにも心許ない。



IGZOは、シャープが開発した液晶技術の名称のように思われがちだが、実はそうではない。

 IGZOとは「インジウム(In)-ガリウム(Ga)-亜鉛(Zn)-酸素(O)」からなるアモルファス酸化物の略称。東京工業大学の細野秀雄教授らが発明した高性能の薄膜トランジスタ(TFT)に使われている透明アモルファス酸化物半導体の一種で、特許は科学技術振興機構(JST)が保有している。

 シャープは、この細野教授らの「発明」といえる基本的な特許をベースに、液晶への応用と量産化のための製造技術を確立。これらについては半導体エネルギー研究所(神奈川県厚木市)とともに、特許を取得しているほか、今秋にはIGZOの商標権を取得し、「IGZO」はシャープのブランドとなった。

 大型液晶への過剰な設備投資が収益を圧迫し、経営危機を招いたシャープ。現在、液晶は「中小型」に注力しており、その中核が高精細でありながら低消費電力の「IGZO液晶」だ。

IGZO液晶の技術については、米半導体クアルコムと共同開発する次世代パネルの回路部分に応用。また、提携関係にある台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業も技術供与を望んでいるほか、主要銀行がシャープへの追加融資を決めたのはIGZOを中心とする技術力に対し理解を示したからともいわれている。

 経営不振に陥ったシャープにとり、業界でも注目度の高いIGZO液晶はまさに“虎の子”。ただ、IGZOで優位性を保てる時間は「意外と短いかもしれない」(業界関係者)という声も少なくない。

 IGZOを使った薄膜トランジスタの基本特許について、JSTは国内外の企業に分け隔てなくライセンス供与する方針を打ち出しており、昨年夏には韓国サムスン電子と契約を結んでいる。すでに学会レベルでは、複数の企業がIGZOを活用したディスプレー技術を披露している。

 この状況に対し、シャープ側は「学会レベルでは複数の企業がIGZO関連技術を発表しているのは事実です。ただ、量産化するための“作り込む”技術が難しいので、簡単には追いつけない」と話す。

 その上で「液晶への応用技術と製造技術は当社と半導体エネルギー研究所が特許を保有している。これを回避してIGZO液晶を作るのは困難なのでは…」と強気の姿勢を崩さない。

 とはいえ、IGZOに関心を寄せる韓国サムスンの2012年度の研究開発費見込みは13兆6千億ウォン(約1兆300億円)といわれ、シャープの約7倍にのぼる。ライバル会社をけ落とすためならば、豊富な資金力を生かし、損をしてでも勝負を仕掛けるという“豪腕”経営を実践してきた。それだけに、すでにJSTと基本特許のライセンス契約は結んでおり、「シャープの特許という壁はあるものの、サムスンが本気になれば、キャッチアップは想像以上に早いかもしれない。IGZOは1、2年で陳腐化するだろう」と別の関係者は推測する。

 シャープが、米クアルコムと共同開発する中小型向け次世代パネル「MEMSディスプレー」は部材が少なく、消費電力は通常の液晶パネルの約半分という特徴を持つ。実用化すれば世界初で、新たな収益の柱として期待される。

 平成25年3月期の連結最終赤字が4500億円にまで膨らむ見通しとなったシャープ。MEMSディスプレーのような、IGZOと並ぶ“虎の子”を複数持たないと、今の危機を乗り切ることはできないかもしれない。