川崎市の田園都市線・宮前平駅から歩いて数分。不動産大手の大京が建設している高級マンション「ライオンズ宮前平ヒルズ」のショールームでは、未来の暮らしが垣間見える。内見に来ている人々の目を引くのが、リビングの壁を飾る大きな鏡。シンプルなデザインのソファを引き立て優雅な空間を演出するからではない。前に人が立つと、瞬時に大型の情報端末に変身することが、見学者を驚かせている。
センサーによって人を検知すると、鏡がディスプレーに切り替わる「ITミラー」。鏡の前で手を振るなどのジェスチャー操作で、写真や映像などのコンテンツを大きな画面で楽しめる。日本ユニシスと旭硝子が共同開発した。製品化は未定だが、今年の8月からライオンズ宮前平ヒルズのショールームでプロトタイプを披露している。次世代端末として注目を集めそうだ。



 ITミラーは、旭硝子が開発したガラスとディスプレーを融合した「インフォベール」に、モーションセンサーを利用した動体解析技術を組み合わせて実現し た。インフォベールは、光学接合を使い、鏡のガラス面にディスプレーを貼り付けるもの。直接貼合によって空気層を省き視認性を高め、浮かび上がるような くっきりした映像を実現している。ITミラーで閲覧できるコンテンツは、写真や映画など。「あらかじめ保存しておけば、どんなコンテンツでも楽しめる」 (日本ユニシス)という。
 インテリアとして部屋になじみ、前に立つだけで“起動する”ITミラー。追求しているのは、「ごく自然な感じで使え る」(日本ユニシス総合技術研究所の今道正博技術育成室長)という情報端末らしくない操作性だ。手ぶりでコンテンツを選んだり再生したりできるので、ス マートフォン(スマホ)やタブレットのように画面にタッチする必要はない。商品化したあかつきには、一つの端末ですべてのデジタルコンテンツを管理できる ようになり、住宅内のパソコンやテレビを置き換える可能性もある。
ユーザーが端末を明示的に操作するだけでなく、センサーや動体解析技術によっ て、ユーザーと端末の間のインタラクションが生まれる。「将来的には、脳波も活用できるようにしたい」(日本ユニシスの今道技術育成室長)と展望を語る。 「次の洋服が見たい」など、ユーザーが取りたいアクションを脳波から読み取り、自動的に表示するといった構想だ。ITミラーに人工知能(AI)機能を組み 込めば、グリム童話の『白雪姫』に出てくる魔法の鏡のように、質問すると映像付きで回答してくれる日も、そう遠くないかもしれない。