大手調査会社のIHSは、2016年1月27-28日に「第30回 IHSディスプレイ産業フォーラム」を開催する。
その注目の講演内容を登壇アナリストに聞く。
「タッチパネル市場」を担当する主席アナリストの大井祥子氏が同市場動向を概説した。

―タッチパネル市場をどう見ていますか。

大井:既存の2次元的なタッチ技術に加えて、ジェスチャーセンシング、フォースタッチ、ハプティックといった新たな入力インターフェースが登場してきた。タッチ技術の「3次元化」が本格的に始まったと捉えている。これらのインターフェース技術は、決して新たに開発されたものではなく、技術自体は以前からあった。だが、スマートフォン(スマホ)などの機器に搭載されたことで、いま改めて注目され、巨大なデバイス需要を生み出そうとしている。こうした技術が今後どのように機器に搭載され、さらに普及していくための使い勝手の良いアプリやソフトの開発がどう進むかが、2016年の大きなテーマの1つだと見ている。



―フォースタッチはアップルが採用したことで一気に注目されましたね。

大井:そもそもタッチパネル技術は、アップルが iPhoneに採用したことをきっかけに市場が拡大した。この流れを中国のスマホブランドが追うというのが近年の構図だ。フォースタッチは圧力を検知する タッチ技術であり、アップルの採用によって2016~17年は需要が伸びるとみている。だが、中国スマホブランドでの採用は当面ハイエンド端末のみにとど まる見通しであることに加え、グーグル陣営がいつ本格採用に踏み切るのかまだ不透明であるため、安定して伸びていくかは未知数だ。それを左右するのは、 フォースタッチが必要なアプリが開発され普及するかにかかっている。

―フォースタッチのデバイス構造に関しては。

大井:現在は液晶モジュールの直下にFPCを追加搭載することで機能を実現しているが、厚みの問題からセンサー層を既存の部材に組み込んでしまう検討がなされているようだ。

―ハプティックに関しては。

大 井:ハプティック技術は、タッチした感覚が得られるのが特徴だが、その必要性がユーザーに広く浸透するまでには至っていない。やはり、ハプティックを必要 とするアプリの登場が重要なカギになる。デバイス構造としては、ERM(偏心モーター)を用いるケースが現在一般的で、高精度なLRA(リニア共振アク チュエーター)方式や、コスト削減が課題とされるピエゾ方式などが知られている。

―ジェスチャーセンシングについては。

大 井:すでにスマホには大量のモーションセンサーが搭載されているが、これに加えて、タッチパネルに触らなくても機器を操作できる新技術が多数登場してい る。特に米国ではベンチャーを中心に研究開発が盛んに行われており、超音波を使って「非タッチ」で機器を操作する技術などが提案されている。また、 AR(拡張現実)技術とジェスチャーセンシングを組み合わせたウエアラブルのゲーム機なども2016年から本格的に登場する。

―一方で、既存のタッチパネル市場では、過剰生産やセット機器の販売不振、インセル/オンセル技術の普及などで、メーカーの再編・淘汰が起きている。

大 井:確かに、2次元のタッチセンサーだけの市場を見ると、2015年は生産面積こそ前年比で伸びるものの、金額ベースではマイナス成長になる見通しだ。 2016年以降も横ばい~微増と厳しさが続くとみている。だからこそタッチパネルプラスアルファが不可欠で、タッチパネル技術と3Dインターフェース技術 をうまく組み合わせ、新たな市場を創出していかねばならない。

―技術の融合が不可欠ということですね。

大井:そのとおり だ。タッチパネルメーカー単独あるいはセンサー技術を持つメーカー単独では技術の融合は難しく、今後はコラボの橋渡し役となるコーディネーター的なパート ナーの存在も重要になる。また、スタイラス(入力ペン)ソリューションも市場の起爆剤になりうる。民生品での入力精度の向上に向け、アクティブペンやソフ トウエアの規格化を進める業界団体USI(Universal Stylus Initiative)が設立された。セットメーカーに限らず、ICメーカーやパネルメーカーもメンバーに名を連ねており、さらに使い勝手が向上するだろ う。

―日本のタッチパネルメーカーにも再編の流れが及びますか。

大井:そうは思わない。大規模投資を実行した台湾や中国 のメーカーと違って、日本メーカーは不特定多数の顧客を相手にせず、身の丈に合った投資にとどめている。カバーガラスレスの低抵抗フィルムセンサー、片面 積層のフィルムセンサー、両面ITOのフィルムセンサーなどをいち早く実用化するなど、技術的にも世界をリードできる底力がある。