ところで、この革新機構とシャープの不協和音は、少し前から聞こえていた。革新機構がなぜか電機業界を中心として出資してきた事実への批判もあった。さらに、JDIと統合しても、シャープのイグゾー(IGZO)ではなく独自技術の商品を前面に出そうとしていた。JDIは、LTPS(低温ポリシリコン)を活用しようとしており、「うちは基本的に(イグゾーではなく)LTPSを使った有機ELパネルをやっていく」と公言するほどだった。
鴻海は、どんな会社なのか、あらためて説明しよう。同社はいわゆるEMS企業だ。EMSは、Electronics Manufacturing Serviceの略であり、電子機器の受託生産を行う。鴻海は1974年に郭台銘氏が創業し、もともとは大手メーカーへマザーボードやコネクタ類を納品していた。だが、大手メーカー各社が90年代以降、自社製品生産を外部に委託する流れが加速してから、それを請け負う同社は劇的に成長していった。


現在はグループで80万人以上の従業員を抱える。80万人とは、大きすぎて想像しがたい。そして、ビジネスの規模もやはり大きい。同社のレポートを見ると、最新年度の売上高が4兆2131億台湾ドルで、純利益が1324億台湾ドルとなっている。1台湾ドル3.5円で計算すると、売上高は14兆7461億円、純利益は4637億円となる。日本でも、これほど大きな企業を探すのは難しいが、あえていうと、自動車メーカーのホンダは連結売上高が約13兆円なので、それよりも少し上となる。
それにしても高い技術を有すシャープが、EMS企業から支援を受ける、というのは考えてみるに示唆深い。これは鴻海に技術力がない、といいたいわけではない。ただ、それでも、シャープはアセンブリ企業に買収されるのだ、という感が少なくとも私には拭えない。もちろん、この感覚自体が古いものであるには違いない。
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