新たな成長機会を模索する米アップル。中国に続く成長市場としてインドに照準を合わせているが、中国で成功した方程式をインドにそっくり当てはめるのは困難となりそうだ。  
ティム・クック最高経営責任者(CEO)は今週、直営店の開設や中古品販売開始などを進展させるべく、インドを訪れる。  だがクックCEOが思い描く野望はもっと大きい。それは、世界第2位のスマートフォン市場になろうとしているインドで存在感を大きく高めることだ。  インドと中国には共通点があるとクックCEOはみている。
巨大な発展途上国であること、そして経済の急成長によってアップル製品が手の届く高級品になり得るという点だ。  クック氏は先月、アナリストとの会合で「今のインドは7~10年前の中国のようだと受け止めている」と話した。



しかし、現実ははるかに厳しい。インドの消費者の可処分所得は中国より大幅に少ない。インドの1人当たり国内総生産(GDP)は、10年前の中国を31%下回っている。

 さらに、インドでは携帯端末を通信キャリアから購入するのが一般的ではないため、中国移動(チャイナモバイル)がしたように、通信キャリアが「iPhone(アイフォーン)」の販売を加速させることもできない。コンサルティング会社カウンターポイントのアナリスト、タルン・パタク氏は「インドでのiPhoneの普及は中国と比べて遅くなるだろう」と語った。

 アップルがインド市場で成功するには、ニューデリーの大学に通うサンジェイ・クマールさんのような消費者の支持を勝ち取る必要がある。クマールさんは、最近発売された「iPhone SE」を含め、アップル製品には興味がないと話す。SEは現行のiPhoneシリーズでは最も小型で最も安価だが、インドでは通常500ドル(約5万5000円)以上で売られている。
 「iPhoneは高すぎる」と語るクマ-ルさんは、以前に8000ルピー(約1万3000円)で手に入れた中国・小米科技(シャオミ)製のスマホ「ノート」を使い続けるつもりだという。

インド政府関係者2人は、クックCEOが訪印中にモディ首相との会談を予定していると明らかにした。

 関係者の1人によると、クックCEOはインドでiPhoneのメーカー再生品および中古品の販売に関する申請を前進させるよう働きかけるもようだ。インドでは昨年販売されたスマホの7割は150ドル未満となっている。再生品や中古品が販売できれば、アップルにとってインド市場での突破口が開くかもしれない。関係者によれば、アップルの申請は条件付きで承認される可能性がある。

 アップルは今年1月、インド国内の販路拡大策として、直営小売店の開設およびネット販売の開始について当局の承認を求めた。政府関係者の1人はこの承認が「近く」下りる見通しだと述べた。

 中国経済が減速しつつあることを考えると、インドで波に乗ることはとりわけ重要だ。中国はアップルにとって米国に次いで2番目に大きい市場となったが、1-3月期には大中華圏(香港と台湾を含む)の売上高が26%減少した。

 アップルのインドでの売上高は、2015年9月期に10億ドルを超えた。中国でこの大台を超えたのは6年前だ。同社はインドでこれまで目立った投資を行っていないが、1-3月期の売上高は前年同期比56%増と高い伸びを示した。

 だが、より安価な競合製品が溢れかえるインドのスマホ市場では、アップルのシェアは低下している。調査会社ストラテジー・アナリティクスによると、同社の1-3月期のシェアは2.7%と、12年1-3月期の6.6%から低下した。同社のアナリスト、ニール・モーストン氏は、アップルが「インドで弾みをつけるのに苦労している」と話した。

 アップルは1年に1、2回しか新製品を投入しないが、マイクロマックス・インフォマティクスなどインドの競合他社は、安価な新型のスマホをさまざまな価格で数週間おきに市場に投入することで勢いを得ている。その大半は150ドル未満だ。また、小米や聯想集団(レノボ・グループ)といった中国企業は、高価格帯の端末の多くに採用されているような機能を搭載した安価モデルを展開している。100~250ドルで販売されている韓国・サムスン電子の「ギャラクシーJ」シリーズも人気が高い。

 インドで同社が直面するもう一つの壁は販路にある。中国では、アップルは2013年に中国移動と提携し、中国移動の数千を数える店舗でiPhoneが買えるようにした。だがインドでは携帯端末を別に購入し、プリペイド方式の通信サービスを利用するのが一般的だ。アップルは、消費者の多くが個人経営の小売店でスマホを買う小型都市でiPhoneを普及させられずにいる。

 アナリストらによると、こうした消費者を取り込むために、アップルは各地域に根差した流通業者との関係をますます強化している。

 ただ、「アップルがインドで販路を拓くまでの道のりはまだ長い」--。こう語るのは、ストラテジー・アナリティクスのモーストン氏。インド国内のiPhoneの販路は販売店や露天、ウェブサイトの約1%にしか過ぎないと指摘する。

 ニューデリーにある複数の小売店の従業員らは、iPhone SEは在庫が少なく、買い求める客も多くないため店頭に並べていないと話す。店を訪れる客の多くは、iPhoneシリーズでは「5S」(販売価格は約300ドル)を好むという。だが、カウンターポイントのパタク氏によれば、5Sは4~5カ月以内に販売中止になる公算が大きい。

 デリー首都圏の商店街、パリカ・バザールでスマホなどを販売している店の従業員ジャス・ナインさんは「最も重要なのは価格」と言い切る。ナインさんによれば、大半の客のスマホ購入予算はわずか60ドルで、「iPhoneに興味がある顧客はごくわずか」だ。