EMS(電子製品受託製造サービス)最大手、鴻海精密工業の香港上場子会社、富智康集団(FIHモバイル)は18日、マイクロソフト(MS)傘下のノキアブランドのフィーチャーフォン(通話中心の携帯電話)事業を3億5,000万米ドルで買収すると発表した。
鴻海にとって、シャープに続く海外大手ブランドの買収だ。郭台銘(テリー・ゴウ)董事長の目的は、シャープの液晶パネル出荷先の確保や、設計~製造~アフターサービスの一貫体制の充実のほか、ブランド事業に参入し、インドなど新興市場を開拓することとの見方が出ている。19日付経済日報などが報じた。
ノキアブランドのフィーチャーフォン事業買収は、ノキアの元従業員が中心のHMDグローバルとの共同出資。FIHモバイルが3億3,000万米ドルで大部分の資産を取得し、HMDは2,000万米ドルで、ノキアブランドの携帯電話やタブレット端末の10年間のライセンスを取得する。買収完了は下半期の予定だ。



 ノキアは、フィーチャーフォンの世界最大手ブランドで、FIHモバイルを主要生産委託先としていた。フィーチャーフォン事業部門の従業員は4,500人。
 マイクロソフトは2013年にノキアの携帯電話部門と特許を72億米ドルで買収し、14年に1万8,000人を解雇したが、スマートフォン普及の波には勝てなかった。
 元大証券投資顧問の陳豊アジア太平洋地域研究部責任者は、鴻海は買収するシャープの液晶パネルが課題となる中、フィーチャーフォン生産が年間9,000万台に上るノキアに出荷できれば、大口顧客のアップル依存度を下げてリスクを減らすことができると指摘した。
 外資系証券会社は、鴻海はこれまでブランド運営には参入しないと明言しており、シャープの液晶パネルを含む設計~製造~アフターサービスの一貫体制は評価できるビジネスモデルだと指摘した。今後、FIHモバイルが設計、製造、アフターサービスを担い、HMDがブランドマーケティングや販売を担当するなら、北京小米科技(小米、シャオミ)のように自社工場を持たないファブレスのブランドを顧客として取り込むことができる。
 一方、アップルウオッチャーとして知られる元バークレイズ・キャピタル証券総経理の楊応超氏は、郭董事長が長年夢見るブランド参入に技術面での問題はないが、既存顧客の競合になる点で問題があると指摘。ノキアのフィーチャーフォンなら、スマホ中心の既存顧客の市場と重複が少ない上、インドをはじめとした新興市場やアフリカなどで開拓の余地があると分析した。
 市場調査会社、ガートナーの予測によると、今年の携帯電話の世界販売台数は19億台で、うちスマホが15億台。残り3億~4億台がフィーチャーフォンで、主にインドなど新興市場が中心だ。証券会社は、鴻海にとって、フィーチャーフォンで現地の通信キャリアとの関係を構築すれば、その後のスマホ買い替えが視野に入ると指摘した。
 マイクロソフトとノキアの契約が期限を迎えれば、FIHモバイルはノキアのスマホ業務も買収し、シャープの液晶パネルを採用したアンドロイド搭載スマホを作る可能性がある。