液晶パネル大手のジャパンディスプレイ(JDI)は16日、事業が競合するシャープの元専務執行役員で液晶部門トップを務めた方志教和氏(63)を副社長執行役員に招く人事を発表した。7月1日付で就任し、主に液晶パネルの営業分野を担当する。鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入り再建を目指すシャープにとって、方志氏のライバル企業への“転職”は社内外に波紋を広げそうだ。

 液晶パネルの営業には「顔が売れた経営者が必要」(業界関係者)とされる。矢継ぎ早に新モデルを発売するスマートフォン(スマホ)メーカーの要求に対応し、個別に改良した液晶パネルを素早く供給するためには強いトップ同士の信頼関係が物を言う。方志氏はシャープ液晶のトップとして2014年には急成長していた中国スマホの雄、小米科技(シャオミ)創業者の雷軍董事長と関係を構築。わずか数カ月で数千万枚の液晶パネルを供給し、一時はシャープの業績を急回復させた実績を持つ。



 その後は市況悪化などで業績が落ち込み、方志氏は15年に取締役を退任。その際に雷氏が「何で方志氏を外したんだ」と怒り、しばらくシャープ側はシャオミ側と意思疎通ができなかったという。シャープは自ら育てた「スター」をJDIに奪われることになる。

  経営危機に伴うリストラや鴻海への傘下入りなどで、シャープでは液晶部門の人材流出が続いている。社内には方志氏に引っ張られる形でJDIに転職する社員 が増える懸念もくすぶる。くしの歯が欠けるように液晶の技術者らが辞めていけば、鴻海が欲したシャープの液晶事業の再建シナリオにも影を落とすことになり そうだ。

 一方のJDI。シャープ再建を巡っては、JDIの筆頭株主でもある官民ファンドの産業革新機構が一時、買収に動いた経緯もあ る。機構案の柱はJDIとシャープの液晶事業の統合だった。国内の液晶技術をJDIに一本化して韓国や中国のパネルメーカーとの競争を有利に運ぶ狙いが あった。

 最終的に鴻海の傘下入りが決まり、JDIは抜本的な業績回復の手立てが打ち出せていない。16日のJDI株の終値は180円と 上場来安値を更新した。ライバル企業の方志氏を招いて浮上を目指すJDIと、かつて“液晶王国”を築いた立役者のひとりを失うシャープ。両社を取り巻く環 境は厳しくなるばかりだ。

 液晶は有機ELへの置き換えが加速し、韓国や中国のパネルメーカーの勢いは増している。日本という「コップの中」での人材争奪戦は、JDIとシャープの液晶事業が苦戦する実情を映し出す。