台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業によるシャープ買収を巡り、両社が目指していた6月中の出資が実現しなかった。中国当局の独占禁止法に関する審査に時間がかかっているためだ。両社はできるだけ早く新経営体制に移行し再建に取り組む考え。主力取引銀行も支援しており、資金繰りに問題は無いが、中国当局の審査が長引けば収益の改善に遅れが出る可能性もある。

 「6月中に出資を受けて債務超過を解消し、7月1日から(鴻海副総裁の)戴正呉新社長ら新経営体制でスタートを切りたかったが」。シャープ関係者は渋い表情だ。鴻海の郭台銘董事長は6月22日に台湾で開いた同社の株主総会で「(シャープの買収手続きは)今月中にすべて完了するだろう」と強調。シャープの高橋興三社長も「6月30日(の完了)を目指す」と表明していた。



 シャープは2016年3月期に液晶事業などの不振で2年連続の巨額赤字を計上、連結債務超過に陥った。鴻海からの出資がなければ債務超過を解消できず、金融機関からの融資条件などに影響しかねない。

 シャープは6月23日の株主総会で取締役の選任案の承認を得た。しかし、鴻海側が新社長として送り込む戴氏らの就任は出資完了後になる。巨額赤字の責任をとって出資後に退任予定の高橋社長が暫定的に率いる体制が続く。

 株価も低迷している。30日の東京株式市場の終値は110円で1カ月で25%下がった。27日には一時、94円まで下げており、鴻海の取得予定価格である88円に近づいた。

 シャープでは鴻海の意向を受けて7月1日付で幹部を大幅に刷新する案もあった。ただ、30日に発表されたのは昨年6月まで代表取締役専務執行役員を務めた中山藤一氏(62)の復帰だけ。中山氏は専務執行役員として複写機を扱う社内カンパニー社長に就く。

  7月1日は本社移転の「節目の日」でもある。創業者の早川徳次氏が関東から拠点を移して以来、大阪市阿倍野区に本社を置いてきたが、シャープと鴻海が共同 運営する液晶生産会社(堺市)の隣接地に本社を移す。インターネット上では、堺への引っ越しのため早川氏の銅像がシャープ本社の台座から姿を消した写真が 話題を呼ぶ。

 出資期限は10月5日までで、鴻海は早期に出資する意向をにじませている。ただ、シャープには一度合意しながら出資が実現しなかった4年前の苦い記憶も残る。出資という再生に向けた大きな一歩を踏み出せないまま、シャープは節目の7月1日を迎える。