経営再建中のシャープを退職したOBが国内メーカーで活躍している。モーター大手の日本電産は既に100人超を採用したほか、農機大手のクボタには今年だけで約30人が転職する見込み。経営危機とはいえ、シャープは独創性のある製品の技術開発には定評があり、その技術力やノウハウが各社の経営戦略にマッチし、即戦力として重宝されている。シャープの戴正呉社長は旧本社地区のビルを買い戻すなどして社員の士気向上を図るが、人材流出の阻止は再建に向けた課題として立ちはだかる。

「シャープでの経験がなければ今の仕事はなかった」。家庭用品大手のアイリスオーヤマに再就職した雨堤正信さん(60)は、希望退職に応じて2012年12月にシャープを辞めた。シャープでは家電製品の開発一筋で冷蔵庫13年、エアコン20年。業界初の扉が両側に開く冷蔵庫の開発も手掛けた。「大手では一製品の開発しかやらずに退職するケースが多いが、二つもやらせてもらい幸せだった。だが、アイリスでは二つどころか何でもやる」。アイリスは開発期間が短く、品数も多い。入社3年で扇風機や除湿器など3製品を開発した。



 アイリスの家電製品のコンセプトはデザイン性、使いやすさ、手ごろな価格だ。開発した除湿器は小さくて静か。機能も絞り、価格は大手の3分の1程度だ。「シャープにいた時は過当競争で、他社と差別化するために機能を増やしていくしかなかった。でも大手の製品は使わない機能ばかりで価格も高い」と話す。

 アイリスは家電の開発拠点「大阪R&Dセンター」(大阪市中央区)の技術者を7割増の100人体制に増やす方針。家電事業の強化が課題で「管理職ではなく、実際に手を動かす技術者を求める」としている。

 クボタでは2013年以降、シャープからの転職者が約90人に上る。クボタはここ数年、欧米やアジアでトラクターなどの生産・販売拠点を拡大している。13年度に海外の売り上げが国内を上回り、現在は約7割を海外が占める。グローバル化を進める中、新製品の開発や設計、工場の稼働に必要な技術を持つ即戦力としてシャープOBが迎えられている。モノのインターネット(IoT)を使った生産管理や無人農機の開発など新分野でも活躍が期待されている。

 シャープの旧本社とクボタ本社は地理的にも近く、離職者の受け皿になってきた格好で、今年に入って鴻海(ホンハイ)傘下入りが決まった後も流出の勢いは止まらない。大阪労働局は「本社が大阪市から堺市に移り、通勤できない人が増えたことが大きい。新しい経営体制になじめない人もいるのではないか」と指摘する。同労働局に登録しているシャープとその関連会社出身の求職者は9月現在で約200人。今年に入って新たに登録した人が相当数含まれているようだ。

 「仲間が1人、2人とやめていき、転職を決断した」。昨年11月にシャープを辞めた30代の社員は再就職先を先端企業に脱皮を図る関西の機械メーカーに決めた。「成長の伸びしろがあると感じる。時代が変われば会社も変わらないといけない」と痛感する。大阪に本社があるパナソニックなどに就職した仲間もいる。

 シャープからは幹部の流出も相次いだ。電子部品大手、日本電産には片山幹雄元社長が副会長として、大西徹夫前副社長は副社長に転身した。後追いする社員も多く、同社に移ったシャープOBは100人を超えた。永守重信会長兼社長は「シャープをリストラされるなら、300人は採用したい」と語る。人材獲得を急ぐのは20年度に売上高を今の2倍近い2兆円に成長させるためだ。新事業として強化するロボットやIoT事業にはシャープ出身者が最適とみている。液晶パネル大手、ジャパンディスプレイ(JDI)には、シャープの方志教和元専務が副社長として転職した。

 今年8月に就任した戴社長は、昨年から実施した給与の一律カットをやめ、経営難で3月に手放した大阪市の旧本社地区のビルを、9月に買い戻すことを決めた。社員に対しても「全員一丸」を強調したメッセージを送り、求心力を高めようとしている。しかし、再建に向けたリストラが「世界で7000人に上る可能性がある」としており、将来の不安を抱く社員も少なくない。再建に向け、社員の意識を結集させられるかが問われそうだ。