赤字の続くジャパンディスプレイ(JDI)が、多額の資金調達の必要に迫られている。売り上げの半分超を占める主要顧客のアップルが、スマートフォンの次世代ディスプレーとして有機ELの採用を検討し、競合他社が供給の準備を進めているためだ。

  「有機ELに投資しない場合は、スマホ向け事業は撤退するという意思決定をしなくてはならない」と三菱UFJモルガン・スタンレー証券のアナリスト、宮本武郎氏はブルームバーグの取材に述べた。宮本氏は有機ELのライン構築には最低でも1500億円の設備投資が必要だと分析。借入金や増資で外部資金を調達し、早急に投資しなければならない、と述べた。

 有機ELは従来の液晶ディスプレーと比較して薄く、鮮やかな色彩を表現することができるため、アップルは次世代のアイフォーンへの採用を検討している。韓国サムスン電子は供給をめぐってアップルと交渉中。台湾の鴻海精密工業傘下に入ることで資金調達したシャープも有機EL開発へ2000億円規模の投資を計画し、アップルと協議している。

  JDIも有機ELへの投資は検討しており、広報担当の久保田和彦氏によれば、資金調達について顧客や主要株主、銀行と協議している。来期(2018年3月期)中に量産試作ラインを設置する予定だ。ただ有機ELに関する全体の投資額やアップルとの協議内容については、久保田氏は明らかにしなかった。

  JDI株は17日、一時前週末比14%高の207円を付け、昨年8月10日以来1年2カ月ぶりの日中上昇率となった。SMBC日興証券のアナリスト桂竜輔氏は14日付で、JDI株を「中立」から「アウトパフォーム」に格上げした。

   有機ELはサムスンが発売中のスマホにすでに使用しているほか、米グーグルが発表した新型スマホ「ピクセル」にも使われる予定。調査会社IHSマークイットは、スマホ向けの有機ELの出荷額は18年に186億ドル(約1兆9300億円)に達し、178億ドルの液晶を初めて上回ると予測している。今年上期時点ではサムスンが出荷量の99.4%を占め、市場をほぼ独占している。

  IHSのアナリスト、早瀬宏氏は、出荷金額が増加する理由について「各社が積極的な投資を計画している」と指摘。フィルム素材を使う有機ELの特性を生かし、折りたためたり丸めたりするディスプレーができれば、「新たなマーケットを生む可能性がある」と述べた。

  JDIは、現在も36%の同社株を保有する政府系ファンドの産業革新機構が主導してソニー、東芝、日立製作所の中小型液晶パネル事業を統合し、2012年に事業を開始した。14年に上場したが、アップルへの出荷が遅れるなどの誤算が続き、前期(16年3月期)まで2期連続の純損失となっている。4-9月期についても24億円の営業赤字となる見通し。

  JDIが前期にアップルから得た売り上げの割合は53.7%に上り、アップルの動向に収益や経営方針が左右されるのが避けられない状況だ。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の宮本氏はJDIが「アップルに依存していれば何とかなるという経営戦略だった」と述べ、「甘かった」と批判した。また業績悪化により「資金ショートが起こりやすいビジネスモデルになってしまっている」と指摘、経営状況は「綱渡りだ」と述べた。