紙おむつ材料の高吸水性樹脂で世界シェア首位の日本触媒。創業時からの発展を支えたのは「無水フタル酸」と呼ぶ樹脂の添加剤だった。吹田研究所(大阪府吹田市)は1943年に無水フタル酸の量産を始めた工場が前身だ。生産終了に伴い工場は2014年末に閉鎖したが、その後研究所として生まれ変わった。原点の土地で新たな先端材料の開発が進む。

 吹田研究所の一角にあるクリーンルーム。専用の評価装置で最新の有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)材料の性能検証が行われていた。有機ELは電力消費が少ないため、軽くて薄いディスプレーの開発に向いている。ただ大気中の酸素や水分に触れると変質しやすい弱点がある。

 日本触媒は16年5月にNHKと共同で、酸化しにくく消費電力も減らせる有機EL材料の開発に成功した。「酸素や水に強いほど有機ELディスプレーの稼働時間は長くなります」。開発担当の森井克行主席研究員はこう説明する。実用化に向けてさらに薄くて軽いディスプレー用材料の開発が進む。



 有機EL材料の開発を始めたのは09年。先行する他社と差異化するために注目したのが、電子を注入する層に使う材料や添加剤だった。通常は酸化しやすいアルカリ金属を使うため、ガラスなどで封止する必要がある。新たに開発した材料は大気中で封止しない状態でも長時間安定して発光するのが特長だ。紙おむつ材料の技術との関連性はないが、材料技術を核に開発テーマは社内で無数に存在するという。

 日本触媒の研究開発はグループ2千人のうち4分の1が携わる。材料を活用すれば展開できる分野は多いが、製品化に時間がかかる。その間に市場が成長するとは限らない。住田康隆研究センター長は「成長分野の見極めが難しい」と話す。吹田研究所では16年に新たな開発棟を開設。事業化が見込めるテーマを設定し、大学や他社との連携も強化している。

 その足がかりといえるのがリチウムイオン電池材料だ。独自のフッ素化技術を活用して14年に実用化した。低温下でも安定した性能を保てるため、車載電池などへの活用が期待されている。

 10年度に旭化成や東レなど20社と電池技術を評価する民間団体、技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター(大阪府池田市)に加盟し、自前で難しかった試作や性能評価を外部でできるようになった。当初は民生機器に使う電池向けを想定していたが、性能評価が進むなかで車などにも活用の幅を広げている。

 「付加価値の高い製品を持っていても自社で評価するには限界がある」。住田氏はこう言い切る。技術の囲い込みは必要だが、評価や検証が進まないと研究も滞る。吹田研究所は研究の種まきだけでなく、他社や外部の研究機関と早い段階から連携して種を育てる司令塔の役割を担う。

 紙おむつ材料では圧倒的な存在感を持つが、中国などアジアの化学メーカーの技術水準は年々上がっている。主力事業に次ぐ成長の柱を育てるため、近年は医療分野などで他社との提携も進む。

 15年にはバイオベンチャーの糖鎖工学研究所(京都市)に出資。今年4月には大阪大学内に役員常駐の研究所を開設した。産学連携の拡大で研究分野の実用化へのスピードを早める狙いだ。付加価値の高い先端材料を市場で認めてもらえるか。研究所の役割はさらに増している。