アップルの「iPhone(アイフォーン)」の成功は、ガラスや金属加工機械などさまざまなメーカーに恩恵をもたらしてきた。年内に発売される予定のiPhoneの後継機種に有機ELディスプレーが採用されることで、出光興産も人気スマホを支える企業群に名を連ねようとしている。

 石油会社としてのイメージが強い出光だが、有機ELとの関わりは古い。発光材料の開発に着手したのはブラウン管テレビが主流だった1980年代中ごろ。電子材料部の長瀬隆光・企画グループリーダーによると、同社は青色材料から開発を始めた。青色は赤や緑に比べて発光エネルギーが大きく、化学物質にかかる負荷が非常に重いため、特に耐用年数が短く開発が難しいという。

 70年代に石油危機を経験し、石油事業への依存度を下げるために始めた多角化の一環だった。試みは成功し、今では同社の有機EL材料がグーグルやサムスン電子のスマホなどで広く使われている。

 同部の河村祐一郎主任研究員は、早くに研究に着手して基礎的な特許を抑えていることが「参入障壁にもなり、弊社の技術の優位性を示すことにもなる」と説明。長瀬氏によると、鍵となる特許は10年前から押さえていたが、事業として独り立ちしたのはここ3、4年ぐらいだという。

 有機ELディスプレーは現在主流の液晶のものに比べて薄く、曲げることができ、色彩が鮮やかなどの特徴がある。アップルは今年発売予定の新型iPhoneの最上位機種に有機ELディスプレーの採用を検討している。

アップルの参入によりディスプレーの世代交代が加速する可能性がある。調査会社IHSマークイットは、スマホ向けの有機ELの出荷額は17年に227億ドル(約2兆4800億円)に達し、同214億ドルの液晶を初めて上回ると予測している。

 アップルの有機EL採用により、これまであまりiPhoneに縁がなく初めて脚光を浴びることになる国内企業は他にもある。発光体の膜を基板に蒸着させる装置で市場をほぼ独占するキヤノントッキや、有機ELパネル用蒸着マスクを手掛ける大日本印刷、凸版印刷などだ。

 サンフォード・C・バーンスティーンのアナリスト、アルベルト・モエル氏は「すでにサムスンのスマホは数年前から有機ELディスプレーを使っているが、アップルが採用するとなれば普及の大きな後押しになる」と見通す。「アップルのすることはだれもがまねをしたくなるからだ」

 出光の長瀬氏はアップルに続き、競合メーカーが次々と液晶から有機ELにディスプレーを切り替えるようなことが起きれば「長年やってきたわれわれにとっては非常に感慨深くありがたいことだ」と述べた。アップルの採用検討をきっかけに、中国のスマホメーカーの間でも有機ELへの関心が高まっており、さらなる採用の広がりが期待されている。