電子機器の受託製造サービス(EMS)最大手である台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業は2日、米国で追加投資することを明らかにした。すでに発表している最先端の液晶パネル工場の建設を含め、投資総額は300億ドル(約3.3兆円)にのぼる見込みだ。米アップル頼みの受託生産モデルからの脱却を目指すが、巨額投資は大きな賭けにもみえる。

 「米ウィスコンシン州での投資は米国投資計画での第一歩にすぎない」。鴻海は2日、こうした声明を出し、米国投資を一段と拡大する可能性を示唆した。トランプ米大統領が1日に企業関係者を集めた会合で、「鴻海の郭台銘董事長からオフレコで、米国で300億ドルを投資する計画だと、伝えられた」と話したことを受けたものだ。



 郭氏は7月末、米ホワイトハウスでトランプ氏とともに、ウィスコンシン州でパネル工場を建設すると発表した。鴻海は今回、超高画質の放送規格「8K」や次世代通信規格「5G」の関連産業の「生態系(エコシステム)の礎となる」とした。米国では計6州で投資を検討しており、別の場所での投資については「決まり次第迅速に発表する」とコメントした。

 鴻海の狙いは米国で薄型テレビを一貫生産する体制を築くことだ。水平分業から垂直統合にモデルチェンジする戦略の一環となる。最終製品まで手掛けることで黒子役からの脱皮を図る。

 鴻海が電子機器の受託製造サービス(EMS)で世界最大手にのし上がったのは、アップルなどの有力顧客から生産を受託し、中国の巨大工場で大量生産する事業モデルが成功したからだ。

 もともと部品の生産などで協力していたアップルと鴻海の関係は2000年のiMacの生産受託で本格化。鴻海はアップルの厳しい品質基準を守りつつ、桁外れの大量ロットの注文を確実に短期で生産し、アップルの機会損失を防ぐことで報いてきた。二人三脚で成長してきた両者だが、風向きは変わりつつある。

 鴻海は16年度に1991年の上場来初の減収になった。iPhoneの不振でアップルからの受注が減ったからだ。鴻海は世界戦略の見直しを迫られている。突破口と期待されるのが昨年買収したシャープの技術力だ。

 一方、アップルも受託先を鴻海以外にも広げ始めた。インドで現地生産を進めるスマートフォン「iPhone SE」の組み立て先に選んだのは台湾の電子機器受託製造会社、緯創資通(ウィストロン)の工場だった。鴻海もアップルのライバルであるOppoや華為技術など中国勢との付き合いを深めている。

 まだ具体化していないが、鴻海はテレビ以外でもシャープと連携して最終製品を開発・製造し、垂直統合モデルの取り込みを図る。画像を鮮明に映し出す技術などを活用し、内視鏡手術用の機器事業などを育成する方針だ。また、部品事業なども強化し、生産受託からの脱皮を模索している。