高解像度の「4K/8K」実用放送の開始まで1年を切った。放送事業者の業界団体は、放送に必要な受信システム「CAS」の開発を急ぐ。現在のCASはカード型で消費者に無償貸与しているが、新CASはICチップ型で開発し、受信機を手がける電機メーカーに搭載を促す。ただ、CASが製品内蔵型に変わることで、消費者が不利益を被るとの指摘が挙がっている。(葭本隆太)

「4Kテレビで最高画質体験」―。都内の家電量販店には「4K対応」をうたうテレビが並ぶ。ただ、これらの4K対応は画面の解像度のことで、2018年12月に始まる4K実用放送が受信できるわけではない。受信には4K対応の受信機が必要になる。その受信機に内蔵し、放送コンテンツを保護する部品がCASだ。CASは契約者だけが有料放送を視聴できるようにする。



4K/8K放送に対応した新たなCASは、放送事業者の団体「新CAS協議会」が電機メーカーに委託して18年6月までに開発し、量産体制に入る。同9月には市場投入する見通しだ。また、同1月には受信機の開発を検討するメーカー15―20社に試験版のCASチップを無償提供する。受信機の設計開発を後押しし、実用放送の開始に間に合わせる構えだ。

一方、この新CASの提供方法を問題視する声が一部メーカーから挙がっている。現在のCASは「B―CASカード」をテレビの購入者などに無償貸与している。カードの費用は放送事業者とメーカーが負担し合う格好だ。それが新CASでは受信機を製造するための部品としてメーカーがチップを購入する形になる。メーカーの負担が増え、ひいては受信機の販売価格が上昇するという主張だ。

これについて新CAS協議会の螺良貞夫事務局長は「新CAS方式の開発・運用費は放送事業者が負担しており、CASの費用を放送事業者とメーカーが負担し合う構図は今までと変わらない」と説明する。チップやカードの費用だけを見ずに、CASの提供に至る全体の費用負担を理解してほしいというわけだ。特に「『B―CASカード』の時はメーカーが開発費を負担した」(螺良事務局長)と強調する。

また、カード型からチップ型に変更する背景にはセキュリティー強度を高める狙いがあるという。B―CASカードは有料放送を無料で視聴できる違法カードが登場するなど、不正が横行した。このため総務省の審議会はセキュリティー強化のため、4K/8K放送に向けてCASを受信機に内蔵する方針を14年に示した。放送事業者はそれを踏まえて15年4月に費用負担の考え方を整理し、新CASの開発に着手した。

ただ、費用負担の考え方については開発着手時にメーカーから正式に同意を得たわけではない。螺良事務局長は「当時は受信機の開発に参入するメーカーが不透明だったが、広く呼びかけて説明すべきだった」と反省を口にする。その上で「費用負担の構造が、これまでと変わるのは事実。採用してもらえるよう説明を尽くす」と力を込める。

日本民間放送連盟の井上弘会長は「4K実用放送の普及には受信機能を備えたテレビが発売され、視聴環境が整うことが不可欠。受信機の普及と番組制作は車の両輪だ」と強調する。新CASをめぐっては開発を急ぐと同時に、費用負担の考え方について1社でも多くのメーカーの理解を得て受信機の普及に向けた協力関係を築くことが重要になりそうだ。