jolrd X20001-PB1-2パナソニックとソニーの有機EL事業を統合したJOLED(ジェイオーレッド)は5日、世界初となる低コストの「印刷方式」で生産した高精細の有機ELパネルを出荷したと発表した。パナソニックが2006年に研究開発を始めた同技術をJOLEDが事業化に道筋をつけた。電機大手が撤退し一度は消えかかっていた国産有機ELの灯をJOLEDが引き継ぐ。
11月29日午後。石川県川北町のジャパンディスプレイ(JDI)石川工場ではJOLEDの製品出荷式が開かれていた。式典後の懇親会場となった会議室はJOLED社員ら約100人の熱気にあふれていた。



 「誰もできない製品を世に出せた」。「この瞬間は皆で喜びを分かち合いたい」。技術部隊の功労者が次々と登壇し、それぞれの思いを語った。車通勤の社員も多いため、懇親会はアルコールなし。それでも初出荷の感慨が会場を満たしていた。東入来信博社長も「世界初の印刷方式での有機ELパネルの出荷を迎えた。みなさんの努力のたまものだ」とねぎらった。

 JOLEDはJDIから同工場を間借りする形で生産ラインを設けており、量産技術の確立に向けて研究開発を進めてきた。ただJOLED設立から3年、これまですべてが順風満帆だったわけではない。

 パナソニックが研究を続けてきた印刷方式の生産技術をJOLEDが引き継いだのは15年1月。先行するサムスン電子とLGディスプレーの韓国勢は「蒸着方式」と呼ばれる生産方式で量産投資を相次ぎ発表していたタイミングだった。製造装置メーカーの中にも「印刷方式はまだまだ未来の技術」と実現性を疑問視する声も多かった。

 韓国勢は真空中で発光材料を気化させて電子基板上に均等に付着させる「蒸着方式」を採用している。これに対し、JOLEDの印刷方式はインクジェットプリンターのように発光材料を有機溶剤に溶かして基板上に塗り分ける。

 画素の元となる赤、緑、青の溶剤を1マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル以下の間隔で微細に塗り分けた上で、溶剤を乾燥させても発光材料の膜圧を均一に保つ必要がある。材料技術と微細加工技術などを融合させなければならず、生産技術の難易度は蒸着方式と比べて高い。

 15年のJOLED設立直後に蒸着技術を研究してきたソニー側の技術者が退職するなど、生産方式を巡って社内の技術者同士で溝ができた時期もあった。試作品も最初は発光さえしない失敗作もあったという。

 5日に都内で記者会見した田窪米治最高技術責任者(CTO)は「(発光材料のインクを塗り分ける)印刷工程の前後が特に難しい。複雑な技術が絡み合っており、安定的に生産するのに苦労した」と振り返った。事業採算のカギとなる歩留まり(良品率)については「それなりの水準だが、さらに上げていく必要がある」と話した。

 現時点でテレビ向け有機ELパネルを独占的に供給するLGは有機材料で白色光を生み出し、カラーフィルターを通して映像を表示する「白色有機EL」と呼ばれる複雑なデバイス構造を採用している。赤と緑、青の発光材料を塗り分けて発光させるJOLEDの印刷方式は構造が単純で、実現できれば生産コストが下がり歩留まりを高められる。

 田窪氏は「(製造コストは)2~3割程度下がる」と話す。テレビ向け大型パネルで量産技術が確立されれば、技術改良によってさらにコスト低減につながる可能性もある。

 JOLEDの初出荷には、複雑な印刷装置の開発を担った母体企業のパナソニック、発光材料を供給する住友化学の技術革新という2社の貢献も大きい。その上にパナソニックとソニーから継承したJOLEDの技術が上乗せされて初めて実現した。

 JOLEDの顧客第1号はソニーで、医療機器向けディスプレーに搭載されるという。さらに複数社の採用が決まっているといい、今後は大型パネルの生産技術を確立してテレビメーカーなどとの技術提携も検討する。

 研究開発会社として初出荷という節目を迎えたJOLED。次の節目は量産投資となる。足元では19年の量産開始に必要な資金を求めて外部企業を引受先とした増資を検討中。だが想定以上に時間がかかっているのが現状だ。現場の技術陣は製品出荷までこぎ着けた。次は東入来社長ら経営陣が現場の「努力のたまもの」に資金調達で応える番だ。