samsung galaxy 924173946自動車が次のスマートフォンになるとすれば、つまり車載インフォテインメント・システムが本格的に普及する時、ライバルに一歩先んじているのは韓国サムスン電子だろう。

 世界最大のスマホメーカーであるサムスンは、2年前に米車載機器メーカーのハーマン・インターナショナルを80億ドル(現在のレートで約9100億円)で買収すると発表するまで、自動車業界ではマイナーな存在だった。

 それが今や、ハーマンとの連携によって車載インフォテインメント・システムの分野では世界最大のメーカーの一つに躍り出ている。同社が計画しているのは、自動車のダッシュボードをハイテク仕様の「デジタル・コックピット」に作り替えることだ。ダッシュボードの端から端までインターネットに接続した複数のスクリーンを配置し、ドライバーは車内の気温から自宅の冷蔵庫の温度管理まで操作できるようになり、助手席に座る人はストリーミング動画などを楽しめるようになる。



 業界専門家は、サムスンのデジタル・コックピットが市販化されるのは少なくとも数年先、早くても2021年もしくは22年になるとみている。より長期的に見れば、サムスンは無人自動車の内装システムで消費者に選ばれるブランドおよび部品メーカーになろうとしているのだ。調査会社IHSマークイットのシニアリサーチャー、ルカ・デ・アンブロギ氏は「もう自分では運転しなくなる。その時、我々は車内でどう時間を過ごすだろうか」と述べる。

 サムスンの野望を後押しするのは、第5世代(5G)移動通信システムの普及だ。同社は8月、5Gや人工知能(AI)、自動車向けハイテク部品などに向こう3年で220億ドルを投資すると明らかにした。

 同社でスマホのユーザーインターフェース(UI)設計に携わり、現在は自動車向けエレクトロニクスの研究開発を率いるイ・ウォンシク氏は「コネクテッドカーは技術面で最も期待されるブレイクスルーの一つだが、5G抜きでは起こりえない」と語る。

 一方、サムスンが進めるデジタル・コックピットのような「自動車のスマホ化」は、安全性に対する懸念という大きな壁に直面する。ここ数年、調査会社J.D. パワーや米消費者団体専門誌コンシューマー・リポートなどは、車載マルチメディア・システムによってドライバーが注意散漫になる可能性に警鐘を鳴らしている。

 こうした安全面での懸念や技術的なハードルにより、現在市販されている自動車の多くは、スマホに搭載されているような機能をまだ全面的には採用していない。例えば、ドライバーはスポティファイでアーティストや楽曲を検索しようとしても通常はできない。

 自動車業界の専門家は、サムスンにとって大きなアドバンテージになり得るのは、グーグルの親会社アルファベットが同社の基本ソフト(OS)「アンドロイド」をコネクテッドカーにも普及させようとしている動きだと指摘する。サムスンは世界最大のアンドロイド端末メーカーだ。新車販売台数で世界首位に立つルノー・日産・三菱自動車の3社連合は9月、車載OSにグーグルを選んだと発表した。2021年からアンドロイド自動車が登場する予定だという。

 「サムスンは既存のスマートフォンチームを自動車やその他の分野に振り向けることができる」と指摘するのは、市場調査会社ストラテジー・アナリティクスのロジャー・ランクトット氏。「何億もの接続されたデバイスを適切かつ効率的に機能させる方法を知っていることは、サムスンの大きな強みだ」と同氏は語る。

 例えば、サムスンはデジタル・コックピット上の異なる3つのディスプレーでアンドロイドを横断的に同期させる方法を見つけ出している。複数のスクリーンを動かすために異なるチップセットが必要ではなくなるため、この方法は自動車メーカーにとってコスト削減になる。 

またサムスンにはハーマンとの緊密な連携という強みもある。ハーマンは昨年のサムスンによる買収のはるか前から多くの自動車メーカーと関係を築いていた。サムスン幹部はハーマンの独立性を保つと語っており、自動車業界の専門家も、ハーマンは買収される以前の方向性を大きく変えてないと指摘する。

 ハーマンの製品には、ドライバーがアマゾンの「アレクサ」やサムスンの「ビクスビー」などの音声アシスタントを使えるようにするコネクテッドカー用ソフトウェアがある。また同社のソフトはAIを使い、ドライバーのポッドキャストの好みを予測することも可能だ。息子や娘が運転する自動車が指定された範囲外に出た時は親にアラートを送る設定もできるという。

 ストラテジー・アナリティクスによると、インフォテインメントの分野でサムスン・ハーマン連合は2017年に売上高48億ドルと世界2位に付けている。1位はパナソニックの51億ドルだ。

 ただ、競争が激しくなる一方で、消費者がコネクテッドカーで実際どこまでの機能を欲しているか疑問を呈する専門家もいる。

 ガートナーのカルステン・イサート氏は「今現在も自動車には非常に多くの機能が詰め込まれており、消費者は自分たちが何を持っているか分かっていない」と語る。「自動車から家電製品? どれほどの人がそれを使うか私には分からない」