鴻海精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長(68)が来年の総統選挙に出馬するか否かを検討していると発言したことに対し、産業界から賛否両論が出ている。企業の意見を代弁できると歓迎の声がある一方、政治は企業経営とは異なり手腕が生かせないと懸念の声も上がった。政財界は郭董事長の決断を固唾(かたず)をのんで見守っている。17日付経済日報などが報じた。

経済団体、中華民国工商協進会(CNAIC)の林伯豊理事長は、「トランプ大統領にできたのだから、郭氏も当然できる。企業家の声を代表できるのは良いことだ」と述べ、歓迎する立場を示した。その上で、国家経営は企業経営よりも複雑なため、具体的な目標、方向性、理念を提示する必要があると提言した。一方で、富める者を憎む台湾社会の雰囲気は不利で、知名度は得票につながるとはと限らないと指摘した。



 中華民国全国工業総会(工総、CNFI)理事長を務める台塑集団(台湾プラスチックグループ)の王文淵総裁は、出馬するならお祝いすると述べた。支持するかとのメディアの質問に対しては、「台湾の経済発展が最も重要だ。私が言えるのはそこまでだ」と述べ、明言を避けた。

 一方、中華民国全国商業総会(商総)の頼正鎰理事長は、国家経営と企業経営は全く異なり、優秀な企業家でもうまくやれるとは限らないと指摘。韓国瑜高雄市長の総統選出馬を支持すると明言した。

 メモリーモジュール大手、威剛科技(Aデータ・テクノロジー)董事長で国民党支持者の陳立白氏は、総統選に出馬しないことを強く勧めると述べた。国民党陣営の分裂をさらに深めるなどデメリットが大きいと指摘した。

 仮に総統選出馬となれば、「郭台銘なき鴻海」がどのように運営されていくのかに注目が集まる。

 郭董事長は出馬検討発言に先立つ15日、鴻海の経営で第二線に退く考えを示していた。経済日報は、郭董事長が16日の講演で台プラ創業者の王永慶氏が第二線に退いた例を挙げたことから、鴻海を台プラグループのような経営モデルに転換することを示唆したと論評した。王永慶氏は引き継ぎに当たり、王一族と経営者の「7人組」による集団政策決定体制を構築しており、これを模倣するとの見方だ。

 業界は、鴻海が内部をA次集団からS次集団までの英文字を冠す数十の「次集団」に分け、一部の「次集団」幹部は鴻海の董事や、グループ企業の重要職を務めていることに注目している。「次集団」が集団経営体制の基礎となる可能性がある。

 なお、ロイター通信は関係者の話として、鴻海科技集団(フォックスコン)傘下のコネクタ大手、鴻騰精密科技(FIT)の盧松青董事長を後継候補の有力な一人として挙げた。郭董事長は2013年6月の株主総会で、次世代の成長例として盧氏を引き合いに出したことがある。ただ、盧氏は既に60歳を超えているため、若返りを求める郭董事長の構想とは合っていない。

 郭董事長の総統選出馬検討発言を受け、16日の台湾株式市場では、鴻海グループ関連株が軒並み上昇、時価総額が計170億台湾元(約620億円)上昇した。