米アップルはスマートフォン「iPhone」の性能を左右する中核部品、有機ELパネルで中国パネル最大手製の採用へ最終調整に入った。現行機種で使う韓国サムスン電子製に比べ2割程度安く調達できる見通し。コスト削減を加速して低下するシェア回復をめざす。液晶に続き有機ELでも中国勢が台頭し、世界のスマホ部品業界の勢力図にも影響を与えそうだ。

アップルが新たに調達を検討しているのは中国パネル最大手、京東方科技集団(BOE)。2020年に世界で販売するiPhoneへの採用に向けて性能面などのテストを始めた。年末までに最終判断する見込みだ。



アップルはiPhoneの高級機種に有機ELパネルを使い、大部分はサムスン製で一部に韓国LGディスプレーも採用しているとみられる。英調査会社IHSマークイットによると、18年の有機ELパネル世界市場で韓国2社のシェアは計96%。BOEがアップルに納入すれば寡占を崩す可能性がある。

アップルが価格の安いBOEからの調達に動くのはスマホのシェア低下と米中貿易戦争に直面し、競争力向上へコスト削減を迫られているためだ。米IDCによると、18年のスマホ世界シェアはアップルが2位の15%だが、19年4~6月は中国最大手の華為技術(ファーウェイ)に抜かれて3位の10%まで低下した。

トランプ米政権の対中制裁関税「第4弾」の12月発動分にはスマホが含まれる。中国でつくるiPhoneへの10%の追加関税を消費者に転嫁した場合、米国内の需要は年600万~800万台減るとの試算もある。

調査会社によると、iPhoneで有機ELパネルは製造コストの3割近くを占めているとみられる。アップルにはBOEの採用で「10%の制裁関税に相当するコスト削減の大部分を達成したい思惑がある」(業界関係者)との見方があり、サムスンに価格引き下げを促す効果も狙う。

ただ米中摩擦がさらに激しくなれば、米政権が民間企業に調達禁止を求める中国企業の製品が広がる可能性もあり、アップルのBOE製有機ELパネルの採用にはリスクも伴う。

BOEは北京市の政府系組織などが大株主になっている。アップル向けに有機ELパネルを供給する拠点の候補である綿陽工場では、投資額約7千億円のうちBOEの負担は1割程度で、大部分を政府系組織などが拠出したことなどから低価格で製品を供給できるとみられている。

BOEはすでに液晶パネル市場での存在感が大きい。テレビ向けの大型パネルで世界2位で、スマホなどに使う中小型でも世界3位を占める。パソコンやタブレットではアップルにも供給実績がある。液晶パネルで躍進した構図が有機ELパネル市場で再現される可能性もある。