日本で消費される電力に占める再生可能エネルギーの割合は年々増え、20%近くにまで到達している。なかでも伸びが大きいのが太陽光発電で、太陽電池が必須だ。

メガソーラーで何万枚もの太陽光パネルが設置されている風景は日本でもすっかりおなじみになった。そこで使われているのは大部分が結晶シリコンを発電層とする製品だ。時計などで利用されている太陽電池はアモルファスシリコンを発電層としている。つまり民生用の太陽電池の大部分はシリコン製なのである。

この太陽電池にイノベーションが起ころうとしている。主役となりそうなのがペロブスカイト太陽電池(PSC)だ。PSCではシリコンは一切使用しない。代わりにペロブスカイト結晶と呼ばれる金属と有機物からなる化合物を含む薄膜が発電する。実はPSCを発明したのは日本人だ。



桐蔭横浜大学の宮坂力教授が2009年に発表した。このときの変換効率はわずか3.8%だったが、この10年で驚異的に改善され、現在ではシリコン太陽電池に迫る25%に到達している。

これまで多くの研究機関や企業が非シリコン太陽電池の開発に取り組んできた。色素増感型や有機薄膜型が有望とされた時期もあったが、変換効率が十分にあがらず手詰まりになっていた。そこに登場したのがシリコン太陽電池並みの変換効率を達成したPSCだった。

変換効率以外にも強みがある。まず製造コストが安い。結晶シリコンを製造するにはシリコン鉱石を1500度以上で溶解、精製する工程が必要で、大量のエネルギーを消費する。一方、PSCでは発電化合物を含む溶液をガラスやフィルムに塗布して乾燥させるだけで発電層が完成する。

また薄膜であるため重量が軽く、曲面に成形することも可能だ。シリコン太陽電池は晴天時の屋外でないと性能を発揮できないが、PSCは曇天や室内でも高い変換効率を維持できる。

PSCの変換効率が20%を突破した16年ごろからその将来性に着目した大手企業やスタートアップが続々と実用化に取り組み始めている。このなかでトップグループの一翼を担っているのが京都大学化学研究所の若宮淳志教授である。

若宮グループの強みは、高変換効率の発電層を安定して作製できる独自技術を有している点。昨年には若宮教授を創業者とする京大発スタートアップのエネコートテクノロジーズが設立された。

PSCを製品として発売した企業はまだない。商業化には発電層を大面積化するための塗布技術や、変換効率を数年間維持するための封止技術など複数の課題を解決する必要がある。

エネコートはまず、時計やウエアラブル端末向けなどの比較的小型のPSCの実用化に取り組み、徐々に大型品に進出する方針だ。一方で、英オックスフォード大学発のスタートアップのように、最初からメガソーラー向けを狙っている企業もいる。

スタートアップと大手企業が入り乱れての開発競争が繰り広げられている。いずれにせよどこかの企業がPSCの製品化に成功した瞬間に、巨大な市場が誕生することは間違いない。