財務、本業両面で苦境に立つジャパンディスプレイ。かじ取りを担う菊岡稔新社長は、次世代スマートフォンの主流になるとみられる有機EL搭載の波が2021年に到来した場合に備え、パネル量産化の判断を来年中にも下す考えだ。

9月に就任した菊岡社長は17日のインタビューで、「2021年ぐらいの製品展開を考えると、設備の搬入など準備期間に1年以上かかり、もう少し早く決断しないといけない」と発言。有機ELのシェアでは韓国のサムスン電子が8割を超すが、「もう1社強いところに入ってほしいというニーズがどこまで強いかにより、われわれの道は変わる」と述べた。Jディスプは売り上げの6割を米アップルから上げている。



ただし、スマホ向けの参入には数千億円規模の投資が必要で、量産化の際には企業やファンドからの資金調達のほか、「場合によってはJV(合弁会社)みたいな形でパートナーと作る」ことも選択肢だと言う。背景には「自前設備をピーク時に合わせて配置したが、液晶が成熟化する中で過剰になってしまった」反省がある。

Jディスプとして初めて生産に取り組んだ小型の有機ELパネルは、アップルウオッチ向けに近々出荷を開始する。高精細・低消費電力が強みで、技術力のアピールにつなげたい考えだ。

アップルやサムスンなどスマホメーカー各社は、液晶に比べ薄く曲げやすい有機ELの搭載モデルを増やしている。英調査会社のIDTechExによると、20年の有機ELディスプレー市場は343億ドル(約3兆7000億円)と19年から13%伸びる見通し。30年には600億ドルを上回ると予測されている。

関係者によると、アップルは取引先に対し19年の出荷台数見通し(7000万-7500万台)の上限を目指すよう要請するなど、液晶パネル搭載の新製品「iPhone(アイフォーン)11」の販売が足元好調だ。菊岡社長は「われわれにも恩恵がある。当初見込んでいたものに比べて上振れている。2四半期から出荷が始まっており、2四半期、3四半期における寄与はある」と話した。

Jディスプは前期まで5期連続で最終赤字を計上し、今期(20年3月期)は4-6月期に772億円の債務超過に陥った。白山工場(石川県白山市)は2四半期連続で巨額の減損損失を強いられ、現在は稼働を停止している。

資金確保や受注拡大が急務の中、筆頭株主のINCJ(旧産業革新機構)から8-9月にかけ400億円を借り入れ、さらに500億円規模の資金調達を計画している。菊岡社長は、資金調達の枠組みを月内に固め、臨時株主総会を経て年内に完了させる方針だと説明した。

Jディスプは最大800億円の確保を当初目指していたが、台湾の電子部品メーカーや中国のファンドが離脱。現在は香港のヘッジファンドが最大1.8億ドル(約200億円)、アップルも2億ドルを出資する意向を示し、両社以外からの資金調達の可能性も模索している。

菊岡社長は日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)や日東電工、日本電産を経て17年にJディスプへ入社した。