韓国サムスン電子は31日、テレビ向けの大型液晶パネルの生産から撤退する方針を明らかにした。今年末に韓国と中国の液晶パネル工場を停止し、色鮮やかな次世代パネルに軸足を移す。液晶は中国勢の増産に伴い供給過剰の状態でサムスンも赤字が続いていた。かつて日本のパネル産業を苦しめてきた韓国勢の退潮が鮮明になってきた。

韓国中部にある湯井(タンジョン)工場と、中国江蘇省の蘇州工場のテレビ向け液晶パネルの生産ラインを停止する。両工場の旧式ラインは中国メーカーの最先端工場と比べて生産効率が低く採算が悪化していた。

両工場を合わせたパネル生産能力は55インチテレビで年間3000万台規模とみられる。サムスンは既に台湾や中国のメーカーから液晶パネルを調達し自社ブランドのテレビに搭載しており、今後も外部調達のパネル枚数を増やして液晶テレビ事業を継続する。

液晶生産から撤退し次世代パネルに注力する。湯井工場では色鮮やかな有機ELをサムスンが独自に改良した「量子ドット(QD)有機EL」と呼ぶ新型パネルを量産する。2019年10月に同パネルの開発・量産に13兆1000億ウォン(約1兆2000億円)を投資すると表明し液晶を縮小する方針を示していた。蘇州工場の活用方法については検討中という。





サムスンは5年ほど前まで韓国LGディスプレー(LGD)と液晶パネル世界一を競い合ってきた。16年ごろからは中国の京東方科技集団(BOE)などが中国政府の補助金を受けて巨大工場を次々と建設し始め、サムスンは液晶パネルからスマートフォン向けの有機ELパネルに軸足を移した経緯がある。

調査会社の英インフォーマによると、19年のテレビ向け液晶パネルの世界シェアはLGDが24%で首位。サムスンは9.3%で、2位に躍進したBOEなどに次ぐ5位に後退した。韓国キウム証券の推計では、サムスンの液晶事業の19年12月期の売上高は6兆ウォンで、1兆3600億ウォンの営業赤字だった。中国勢の増産で液晶パネル価格は下がり続け、最大手LGDですら赤字に陥っている。

湯井工場は2000年代にサムスンがソニーと合弁でテレビ向け液晶パネルを量産し、液晶テレビで世界首位に上り詰めた象徴的な拠点だった。LGDも年内に韓国内での液晶パネル生産を中止すると表明した。両社とも次世代パネルに注力するものの、価格下落が進む液晶テレビが当面は主流であり続ける見通しで、パネル事業を黒字化できるかは不透明だ。

かつて日本の電機メーカーが切り開いた液晶パネル産業は、激しい投資競争で優勝劣敗が鮮明な分野だ。

1970年代にシャープが世界で初めて電卓の表示装置として液晶パネルを採用。その用途をパソコンやテレビへと広げながらシャープはじめパナソニックや東芝、日立製作所、ソニーら日本の電機産業が同分野の主役であり続けた。一時は10社超が液晶パネルを手掛け、90年代後半までは世界シェアの大半を握っていた。

だが液晶パネルの高精細化・大型化に伴い生産設備の費用も増加した。パネル市況の振れ幅も大きく、機動的な経営判断で巨額の設備投資を決断した韓国や台湾メーカーが2000年代半ばには主導権を握り始めた。

そこにリーマン・ショック後の景気低迷が直撃。日本の電機大手は液晶パネル事業でも巨額の赤字を計上し相次ぎ撤退した。シャープは16年から台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下で経営再建を進めており、日立製作所、東芝、ソニーの事業統合で12年に発足したジャパンディスプレイ(JDI)も経営危機に陥った。

液晶パネルの設備投資額はさらに増大。政府の支援を受けて相次いで参入した中国勢が液晶テレビ向けでは台湾や韓国勢と遜色のない品質の製品を提供できるようになってきた。日本勢を駆逐した台湾や韓国メーカーも劣勢を強いられている。

日本から韓国や台湾、そして中国に業界の覇権が移った産業は鉄鋼、太陽光パネル、造船など数多い。かつての王者サムスンの撤退は液晶パネルでも「中国一強時代」が到来し、この分野でも価格決定権や供給の大半を中国企業が握る行く末を示している。

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