米アップルが4月15日(米国時間)に発表したスマートフォンの新モデル「iPhone SE」。新型コロナウイルスの影響で想定から1カ月遅れたとはいえ、2016年に投入した廉価版の後継モデルが登場した。複数のサプライヤーは「ようやく出てホッとした」と安堵の表情を浮かべる。

3月中旬のはずだった発表がずれ込んだことで、年内に最大3000万台とみられていたiPhone SEの出荷台数は「伸び悩む可能性が高い」(複数の部品メーカー)。その売れ行きに特に神経をとがらせるのがシャープとジャパンディスプレイ(JDI)の「日の丸」液晶2社だ。複数の関係者によると、新SEが搭載する4.7インチの液晶パネルはシャープとJDIの2社が供給しているという。アップルは2社の主要顧客だけに、SEの販売動向が業績に与える影響は大きい。

 そのシャープとJDIは、アップルと密接にかかわる交渉の真っただ中にある。





 JDIの白山工場(石川県白山市)をアップルとシャープに売却するというものだ。すでにJDIは3月31日、アップルとみられる主要顧客に工場設備の一部を2億ドルで売却すると発表した。シャープとは白山工場の土地と建物の売却交渉を続けている。JDIは過剰な製造設備を売却して経営再建を前進させたい考えだ。

白山工場の取得に動くシャープは明言こそしないものの、工場の取得でアップルとの関係を深め、「iPhoneだけでなくアップル製品への液晶供給を拡大する狙いがある」(液晶業界の関係者)とみられる。

 経営再建を進めたいJDIだが、アップルへの液晶供給をシャープに奪われるわけにもいかない。JDIの有価証券報告書によると、アップル向けの売上高は19年3月期で6割を占める。過度なアップル依存は避ける必要があるものの、供給量が一気に減少すればさらなる経営危機の可能性もはらむからだ。

そうした主導権争いを尻目にアップルは有機ELの採用を加速する。20年秋以降に投入予定の、次世代通信規格「5G」に対応するiPhoneの旗艦モデルには、すべて有機ELディスプレーが搭載される見通しだ。サムスンディスプレーとLGディスプレーの韓国勢が供給する。さらに中国の京東方科技集団(BOE)もアップルへの有機EL供給へ向けてサンプル出荷を進めている。

 アップル向け液晶の供給を巡って駆け引きを続けるシャープとJDIは、どちらも有機ELは小規模生産にとどまっており、大規模に生産する計画は明らかにしていない。どちらかが主導権争いに勝っても、そのときにはアップルの液晶パネル購入が激減している可能性もある。日の丸液晶2社の争いは出口の見えない消耗戦になりつつある。

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