世界的な景気悪化は中国依存を深める皮肉を生む。韓国・サムスン電子は3月末にテレビ用液晶パネル生産から撤退する方針を決めた。2020年内に韓国と中国での生産を停止する。新型コロナウイルス感染拡大による消費の冷え込みは、もともと中国メーカーの攻勢で疲弊していた世界大手の背中を押す。同LGディスプレイも年内に韓国での液晶パネル生産をやめる。

中国は今や液晶パネル生産量で世界最大となり、全体の半分を占める。装置産業のため資金力に物を言わせ、大規模投資で盟主の席を韓国から奪った。ちなみに日本国内でテレビ用液晶パネルをつくっているのは電子機器製造受託サービス(EMS)世界最大手の台湾・鴻海精密工業傘下のシャープのみだ。





07年のスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」発売以来、テレビは“家電の王様”の座を譲ったものの、現在でも準主役ではあり続ける。その基幹部品の中国依存は高まっている。アイフォーンの組み立てもまた、主に鴻海などの中国工場に任せており、新型コロナの影響により主力商品の生産に大きな支障を来した。

ただ、世界大手はこれまで「チャイナリスク」に手をこまぬいていたわけではない。テレビやスマホなど電子機器の組み立ては人手がかかる。人件費の高騰した中国にとって、昨今の米中貿易摩擦も逆風だった。「アップルも中国依存を減らすため、主要サプライヤーに東南アジアなどでの生産拡大を要請していた」(電機大手幹部)といい、各社とも東南アジアやインドへの生産移転を急ピッチで進めていた最中での新型コロナだった。

ただ、パンデミック(世界的大流行)ゆえに移転先でも同じく外出禁止や都市封鎖などの問題に直面。サムスンは生産拠点の集中するベトナムで、スマホなどの生産が制限された。同社とNAND型フラッシュメモリーで競合するキオクシア(旧東芝メモリ)も、フィリピンのSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)組み立て外注先が、3月に一時操業を停止。現在は再開しているものの、通常運転にはほど遠いようだ。

デジタルカメラ世界最大手のキヤノンは3月2日から2週間、九州のデジカメ工場の操業を休止した。中国からの部品供給が遅れ、生産効率を落とす恐れがあったためだ。ただ中国の“回復力”も手伝って、当初の予定通り2週間後に生産を再開できた。同社のデジカメ生産の約7割は日本国内で、ロボットによる自動化がほぼ完璧に構築されている。

ある部品大手首脳は「後工程の組み立ては確かに中国だが、大事な前工程は日本国内だけでやっており、こういう状況下では海外勢に比べて有利だ」と胸を張る。グローバル化の進んだ現代においても、海外に頼らないモノづくりは製造業にとって未来のあるべき姿の一つかもしれない。

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