経済産業省が世界の大手半導体メーカーの日本誘致を検討していることがダイヤモンド編集部の調べで分かった。コロナショックを受けて、欧米では中国を想定した外資による自国企業の買収防衛策の行使が相次いでいる。日本でも国内半導体部材メーカーの日本回帰を促す目的で、外資誘致プロジェクトを発足させることにしたのだ。水面下で動き始めた極秘計画の全貌を明らかにする。

新型コロナウイルスの世界的なまん延を受けて、主要国による製造業の国内回帰、基幹技術の囲い込みが活発化している。経済産業省は世界有数の半導体メーカーの生産・開発拠点を日本へ誘致するプロジェクトを進めている。狙いを定めているのが、米インテルや世界最大の半導体ファウンドリーである台湾のセミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)などだ。





 外資を誘致するプロジェクトではあるが、その真の目的は、日本の半導体部材メーカーや半導体製造装置メーカーの「国内回帰」を促すことにある。海外の強い半導体メーカーに最先端工場を日本に造ってもらうことで、それらに部材・装置を納入する国内メーカーの供給先を日本に確保しようという構想なのだ。

 昨秋より、経産省は半導体のサプライチェーンの洗い出しにかかっている。半導体の製造工程に関わる日本企業のうち、他国の企業に真似できないコア技術を持つ企業はどこなのか――。国内に囲い込むべき「本当に重要な技術」を選別しているのだ。

 ある経産省幹部は「もはや日本に強い半導体メーカーはなくなってしまった。このままでは、国際競争力のある日本の部材・装置メーカーが海外へ出ていく流れは止められない。国内に外資の強い最先端工場を造る他に、海外流出を止める手立てはない」と言い切る。国内の技術空洞化に対する経産省の危機感は強い。

 実は、すでに経産省は19年度予算にこのプロジェクトの実現をにらんだ項目を滑り込ませている。ポスト5G(第5世代移動通信システム)情報通信システム基盤強化開発事業として計上した予算1100億円には、「先端半導体製造技術の開発」という項目が含まれている。パイロットラインの構築等を通じて、国内にない先端性を持つロジック半導体の製造技術を開発するための予算とされており、「外資半導体メーカーを誘致できた時に使えるお金だ」(別の経産省幹部)としている。

● 「部材・装置」が国内製造業の屋台骨 コロナで高まる買収リスク

 複数の経産省幹部によれば、プロジェクト発足の直接的なきっかけとなったのは日韓問題だった。日本が対韓輸出規制の対象として選んだ「特定3品目」には、半導体の製造工程に欠かせないレジストやフッ化水素が含まれており、日本の競争力のある素材メーカーの供給先がサムスングループなど韓国メーカーに依存している実態が明らかになったからだ。

 そして近年、韓国と並行し供給先としての存在感を示しているのが中国だ。

かつては世界一の半導体メーカーを多数抱えていた日本だが、日本勢は海外勢との投資競争・コスト競争に敗北してしまった。それでも日本の部材・装置メーカーは供給先を日本から“勝者”である韓国や中国、台湾などへ替えることで、国際競争力を発揮してきたのだ。今や半導体産業における日本の強みは、半導体(完成品)メーカーではなく部材・装置メーカーにあり、それらのメーカーが製造業の屋台骨を支えている。

 そのため、海外勢の半導体メーカーの進出動向に引っ張られる形で、日本の部材・装置メーカーは生産拠点や一部の開発拠点を海外に広げてきた。企業が経済合理性を優先させるのは当然のことなのだが、日本が誇る部材・装置の技術を海外へ流出させてしまう。このままでは、半導体のサプライチェーンは過度に中国へ集中していくことになる。

 そして自国技術を囲い込もうとしているのは、なにも日本だけの話ではない。いつの時代においても、産業のコメである半導体は主要国による技術覇権争いの対象となる。米中対立しかり、日韓対立しかりだ。コロナショックは、そうした保護主義の風潮が広がり、世界に「デカップリング(世界の分断)」論が高まっていたタイミングで起きた。

 コロナにより、物理的に人やモノの移動が制限される「世界封鎖」の状況ができてしまったことにより、世界各国で国益を守ろうとする傾向が強まることは間違いない。とりわけ、主要国はコロナ不況から“イチ抜け”しつつある中国の動きを警戒している。ある日系メーカー幹部も「中国は国力を高めるために、海外の企業単位、あるいは事業単位で買収に動く」とみている。

  外資半導体メーカーの誘致プロジェクトについては、特集『電機・自動車の解毒』の#02『日本が米インテル・台湾TSMCを誘致、半導体「国内回帰」の驚愕計画』で詳報している。

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