reuters__20200618113307-thumb-720xauto-202255韓国経済の屋台骨を支えるサムスングループ経営トップに対する検察の逮捕状請求は棄却に終わった。だが、「財閥改革」を掲げる文在寅(ムン・ジェイン)政権は、残り2年の任期で他の財閥も含めて標的に定め、事実上の「社会主義化」をもくろんでいるとの見方もある。主力の輸出産業の低迷が続くなかで、財閥にメスを入れたつもりが経済自体が失血死することはないのか。

 ソウル中央地裁は、李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長(51)によるグループ会社の不正会計疑惑に関し、検察による逮捕状請求を棄却した。2014年に父の李健煕(イ・ゴンヒ)会長(78)が倒れた後、自身の経営権強化を図ったグループ内の企業合併の過程で、株価を操作するなどの不正に関わった資本市場法違反の疑いが持たれている。

 最悪の事態は回避した李副会長だが、これとは別に朴槿恵(パク・クネ)前大統領側に対する贈賄事件の執行猶予付きの判決が破棄され、高裁で審理中だ。





 李副会長は5月6日に突然記者会見で、「子供たちに会社の経営権を譲らない」と世襲否定を表明するなど、反省ぶりをアピールする。ただ、収賄側で朴前大統領の親友、崔順実(チェ・スンシル)被告(63)の実刑判決が確定しており、李副会長が収監される可能性は残る。

 韓国のガリバー企業の経営トップに司法リスクが付きまとう状況について「文政権による財閥潰しのための行動だ」と解説するのは元大手商社マンで朝鮮近現代史研究所所長の松木國俊氏だ。

 「文政権は、財閥が格差社会の元凶だと考えており、財閥の経営者を退け、組織も崩壊させたいという狙いがうかがえる。4月の総選挙で圧勝した文政権は、検察改革も着実に実行している。今後、他の財閥の解体にも手を伸ばすだろう」

 折しも財閥の業績は悪化している。航空大手の大韓航空の営業損益は、566億ウォン(約50億円)の赤字に転落。売上高は前年同期比23%減の2兆3522億ウォンだった。4~6月期はさらに業績が悪化する恐れがあり、アシアナ航空を含めて政府系銀行から金融支援を受けた。

 主力産業の自動車も厳しい。5月の自動車輸出台数は前年同月比57・6%減で、16年10カ月ぶりの低水準だった。

 10日付の中央日報(日本語電子版)によると、自動車最大手、現代(ヒュンダイ)自動車の中国での合弁会社の1~3月期の売上高が、昨年10~12月期から7割減になった。主要市場の中国では、サムスン電子やLGエレクトロニクスなど5大財閥の1~3月期の売上高も同24・6%減と落ち込んでいる。

 韓国経済は、財閥への依存度が高い構造で、財閥の業績悪化は経済の打撃に直結する。そしてその存在感の大きさゆえか、創業者一族がグループを支配して好き放題にふるまう悪癖もたびたび問題になってきた。

 誰もが知るのが前述の大韓航空を抱える韓進(ハンジン)グループで、「ナッツ姫」を筆頭に一族の問題が発覚し、最近でも家族間のお家騒動があったばかりだ。他のグループでも財閥ジュニアの薬物事件など韓流ドラマも顔負けのスキャンダルが相次いでいる。

 対照的に、若者を中心に韓国の雇用環境は深刻だ。5月の失業率は4・5%で1999年以来の高水準だった。失業者数は127万8000人で前年比13万3000人増となった。韓国映画『パラサイト』で描かれたような格差社会は現実のもので、「財閥改革」は政権への不満をそらす狙いもうかがえる。

 前出の松木氏は「文政権は、この不況の原因は現在財閥に代表される資本主義社会だという論理で、格差を無くすためには社会主義化するしか方法がないと国民に訴えるつもりではないか」と予測する。

 文政権は2025年までに76兆ウォン(約6兆8400億円)に及ぶ経済政策「韓国版ニューディール」を打ち出した。デジタル部門と環境部門を柱として55万人の雇用創出を目指すというが、22年時点で国の借金が1000兆ウォン(約90兆円)を超えるとの試算もある。日本を含む各国はコロナ禍で財政支出を大幅に増やしているのは事実だが、韓国の場合、自国通貨ウォンが脆弱(ぜいじゃく)で、資金流出を招く恐れもある。

 さらに財閥叩きが雇用の改善につながる保証はどこにもない。文政権が韓国経済そのものをどん底へ陥れるリスクもある。