文在寅(ムン・ジェイン)大統領は6月29日、「日本が一方的な輸出規制措置を断行して以降1年間、我々は奇襲的な措置に揺るがず、正面突破し、むしろ災いを福となす契機をつくった」と述べた。


文大統領は同日、青瓦台で開いた首席・補佐官会議での冒頭発言を通じ、「韓国の主力産業である半導体、ディスプレーの重要素材を狙った日本の一方的措置が韓国経済に直撃弾になるという否定的見通しは当たらなかった」と評した。  

文大統領はまた、「これまで1件の生産支障も生じず、素材・部品・設備産業の国産化を前倒しし、供給元を多角化するなど重要品目の安定的な供給体制を構築する成果を達成した」とし、「誰も揺るがすことができない強い経済に向かう道を切り開いた」と強調した。





 昨年7月、日本が重要素材3品目に対し、輸出規制を取ってからちょうど1年。文大統領の素材・部品・設備の国産化に対するそうした評価は正しいものだろうか。

 日本による輸出規制品目のうち、半導体生産の必須素材で使用量が多い液体フッ化水素では国産化の成果があった。今年初めから国内中堅企業のソウルブレーン、ラムテクノロジーが日本製と同様の超高純度製品を生産し、サムスン電子、SKハイニックスなどに納品を始めた。液体フッ化水素は半導体製造工程など20以上の用途に投入されている。

 韓国貿易協会の集計によれば、韓国企業の日本製フッ化水素への依存度は昨年1-5月の43.9%から今年1-5月の12.3%へと30ポイント以上低下した。これにより、液体フッ化水素を韓国の半導体メーカーに供給してきた日本のステラケミファによる今年の営業利益は24億円で、前年(35億円)に比べ30%以上減少すると予想されている。今年1月から韓国への輸出が再開された森田化学工業のフッ化水素は販売量が輸出規制前に比べ約30%急減した。日本の輸出規制が一部品目では自国企業の売り上げ急減というブーメランとして返ってきたことになる。

大企業の素材・部品・設備革新企業支援、政府の関連予算拡大も日本による危機がチャンスをつくり出したと評されている。韓国政府は輸出規制がスタートした後、素材・部品・設備100大戦略品目の競争力総合対策を立て、官民合同で関連品目の早期国産化と代替輸入先確保に向け努力してきた。

 李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長は6月30日、子会社セメスの天安事業所を訪問した。半導体・ディスプレー向けの設備を生産する企業で、サムスン側の説明によれば、日本による輸出規制1周年を迎え、素材・部品・設備分野の現況を視察するため、設備メーカーを訪れたものだ。李副会長は「不確実性の終わりは知ることができない。道のりは遠い。疲れてはだめだ。立ち止まれば未来はない」と述べた。

 同じ日、SKハイニックスの李錫熙(イ・ソッキ)最高経営責任者(CEO)はLKエンジニアリング、エバーテクエンタープライズ、セミックスなどを「技術革新企業」に選定する契約式に遠隔方式で出席した。LKエンジニアリングは半導体設備内でウエハーを固定する部品を生産。エバーテクエンタープライズは半導体後工程でチップと基板の接続に使われる物質であるフラックスを生産する素材メーカーだ。セミックスはウエハーの信頼性テスト用設備メーカー。SKハイニックスは外国企業のシェアが高い素材・部品・設備分野で国産化競争力が高い企業を選定したと説明した。

 これら技術革新企業は今後2年間、SKハイニックスと製品を共同開発し、開発された製品をSKハイニックスの生産ラインで直接テストすることができる。開発期間の短縮だけでなく、製品の完成度を高めることができる。また、SKハイニックスから一定量の調達を保証され、無利子の技術開発資金融資と経営コンサルティングも提供される。

 科学技術情報通信部は6月26日に発表した来年度の主要研究開発予算案で、素材・部品・設備産業の技術自立化と供給安定化を通じ、新型コロナウイルスによる世界的なサプライチェーン再編に対応していくとした。素材・部品・設備の自立に向け、今年(1兆7200億ウォン=約1500億円)を22%上回る2兆1000億ウォンを投入する。

素材・部品・設備の独立に向け、官民が取り組みを進めているが、祝杯を上げるにはまだ早いとの指摘もある。全国経済人連合会(全経連)の権泰信(クォン・テシン)副会長は「100品目の技術水準は対先進国比で61%にとどまり、半導体(38%)、ディスプレー(50%)の技術力が特に弱いのが現実だ」と指摘した。まだこの分野で強国である日本の影から完全に逃れるのは難しいとの見方だ。

 実際にフッ化水素でも気体フッ化水素の国産化にはかなりの時間を要する見通しだ。SKマテリアルズが最近、関連技術を確保したことを明らかにしたが、生産量を増やすには追加投資が必要である上、企業がそれを適用するためにはテストも行わなければならない。ある業界関係者は「SKマテリアルズが2023年までに国内シェア70%を目標としているが、現在のシェアは0%に近い」と話した。

 国産化が遅れている規制品目のフォトレジスト、フッ化ポリイミドは、同じ期間に輸入額がさらに増えている。特にサムスン電子がファウンドリーの超微細工程に使用するEUV(極端紫外線)フォトレジストの場合、国産化には5年程度かかるとみられている。現在東進セミケムが開発中のフォトレジストは超微細工程では使いにくいフッ化アルゴン(ArF)を光源としたものであり、当面は日本製への100%依存が続く見通しだ。

 業界関係者は「国内の半導体・ディスプレー業界が当初予想よりも支障なく生産できたのは打たれ強かったのではなく、新型コロナウイルスの拡大で関連懸案が後回しになったからだ」とした上で、「日本はいつでも重要素材を武器にする準備をしており、現実に満足せず、長期的な備えを行うべきだ」と強調した。短期の勝利よりは持久戦に備えるべきとの指摘だ。

 韓国政府は6月初め、日本の3品目の輸入制限措置について、世界貿易機関(WTO)における紛争解決手続きを再開すると正式に発表した。8月には韓国の裁判所が日本企業の資産の現金化を行うと予告している。2018年10月の大法院による強制徴用被害者損害賠償判決に伴うもので、それは日本が輸出規制を取る直接原因となった案件であり、両国間の緊張が再び高まっている。

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