OLED panel share FJ001-PN1-2スマートフォン向けの有機ELパネルで韓国サムスン電子の牙城に穴が開く。米アップルがiPhone旗艦モデルの新製品で韓国LGディスプレー(LGD)製を本格的に採用する。液晶に続く次世代パネルとされてきた有機ELでも競争の時代が始まる。

赤字が続くLGDの徐東熙(ソ・ドンヒ)最高財務責任者(CFO)は23日の決算発表記者会見で「スマホ向けに特化した坡州(パジュ)の有機ELパネル工場はフル稼働を計画している」と述べ、2020年下半期の改善に自信をみせた。

背景にあるのがアップルからの受注だ。アップルは20年のiPhone旗艦モデルで全機種に有機ELパネルを採用する方針だ。旧モデルや安価な「SE」シリーズに液晶は残るものの、新製品は有機ELに置き換わる。増加するパネル需要の大部分はLGDが担うとみられ、関係者によるとLGDは前年比で5倍となる2000万枚を供給する。





iPhoneの有機ELパネルはこれまで大半がサムスン製だったが、20年の受注量は6000万枚前後と前年比では微増にとどまっているようだ。LGDとサムスンは日本経済新聞に「個別の受注状況については回答を控える」とした。

アップルの狙いは調達先の分散にある。サムスンに依存してきた結果、2年連続で巨額の「違約金」の支払いを余儀なくされたからだ。

サムスンはアップル専用の生産ラインから有機ELパネルを供給している。iPhoneの売れ行きが悪いと稼働率低下に直結するため、パネルの供給量が一定水準に満たないとアップルが金銭で補償する個別条件が設定された。「サムスンが独占的に供給してきたから可能になった契約だ。分散調達が可能な液晶では成り立ちにくい」とディスプレーの調査会社、米DSCCの田村喜男アジア代表は解説する。

韓国大信証券は20年4~6月期のサムスン決算で「米国の主要顧客から一過性の利益1兆1000億ウォン(約970億円)が発生した」と分析する。サムスンは19年にも900億円規模の「違約金」をアップルから得たというのが市場関係者や取引先の一致した見方だ。

アップルはこれまでも有機ELの調達先分散に努めてきた。19年秋発売のiPhoneでもLGDの有機ELパネルを一部で使った。ただ、発売が迫る昨夏の時点で歩留まり(良品率)を上げられず、十分な量を供給できなかったためアップルの調達担当者が激怒した。複数のサプライヤーによると歩留まりはその後、改善しているという。

アップルにとってサムスンは、基幹部材の供給者であると同時に、スマホの売り手としてはライバルだ。分散調達でコストを下げるために、LGDの有機EL開発を後押ししている側面もある。

有機ELは色鮮やかな映像を楽しめるほか、折り曲げることもでき、スマホのデザインの自由度が高まる。スマホの技術トレンドをけん引してきたアップルが有機ELの採用を拡大することで、世界のスマホメーカーで液晶から有機ELへの置き換えが加速する。DSCCによると、スマホ向けの液晶パネルの出荷枚数は減り続けており、24年には有機ELが逆転する見通しだ。

ただ、アップルのLGDへの「優遇」が長く続く保証はない。サムスン、LGDに続く第3のサプライヤーとして中国の京東方科技集団(BOE)が迫っているためだ。BOEはサムスン出身者のスカウトなどで技術力を高めてきた。アップルは四川省の成都と綿陽にあるBOEの有機ELパネル工場の性能評価に着手している。

iPhoneの20年モデルへの供給には間に合わない見通しだが、21年の採用が関係者の間では取り沙汰されている。実現すれば、サムスンへの依存度引き下げという面でのLGDの役割は低下する。

パネル業界は資金力がものをいう。半導体で巨額の利益をあげるサムスンや、資金面でも中国政府の強い後押しを受けるBOEとの開発競争についていけるのか。LGDはアップル向けの大型納入を手放しで喜べる状態ではない。

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