パソコンやテレビの主要部材「液晶パネル」が世界で急速に品薄になっている。新型コロナウイルス禍に伴う在宅勤務やオンライン教育の拡大でパソコン需要が強く、巣ごもり生活でテレビ販売も好調なためだ。パネル価格はパソコン向けが春ごろより2割、テレビ向けが6割上昇。「過去に例がない値上がり」(国内アナリスト)を見せている。

「パネルが手に入らず生産が追いつかない。一部の顧客には納入時期を遅らせてもらっている」。国内のあるパソコンメーカーの調達担当者はこう話す。

米調査会社IDCによると、世界のパソコン出荷台数は2020年7~9月期に8130万台と前年同期比15%増。コロナ禍が長期化し「在宅勤務用に春ごろはレンタルしていた人が購入する動きもある」(電子部品商社)。大学などオンライン授業向けも世界で引き合いが強い。





日本では「GIGAスクール」構想の特需が重なる。政府は4月、小中学生に1人1台のパソコンなどを備える計画を従来の23年度から20年度中に前倒し。全国の児童・生徒は約950万人と19年の国内パソコン出荷台数(約973万台)とほぼ同じ規模だが、「納品は21年度にずれ込む恐れもある」(教育用パソコン商社)。

テレビも好調だ。外出が難しくなるなか、動画配信サービスやゲームを家庭で大画面で楽しむ需要が多い。英調査会社オムディアによると、世界の7~9月期の販売台数は前年同期比15%多い6287万台となった。

この結果パネルが足りず、パソコン・テレビメーカー側の調達価格が跳ね上がった。11月の大口取引価格はノートパソコン用の15.6型(解像度HD)が前月比3ドル(10%)ほど高い1枚32ドル前後。コロナ禍前より2割ほど上昇した。テレビ向けも55型が前月比8%高の1枚168ドル前後。春の底値より約6割高い。

液晶パネルの供給は追いついていないもようだ。ここ数年、京東方科技集団(BOE)など中国勢が液晶パネルの設備増強と増産を進めた一方、韓国のLGディスプレーが有機ELパネルの量産を強めるなど一部の大手は投資の軸足を液晶から移行。足元では液晶向けの投資機運は落ち着いている。

ところがコロナ禍でパソコンやテレビが売れ始めると、液晶パネルの需要が急増。LGディスプレーは20年1月にテレビ向け液晶パネルの国内生産を年内メドに中止すると発表していたが、市況回復を受けて当面は継続する方針を示した。鴻海(ホンハイ)精密工業傘下の液晶パネル大手、群創光電(イノラックス)は11月の売上高が前年同月比21%増。同業の友達光電(AUO)も22%の増収だった。

米調査会社DSCCの田村喜男アジア代表は「外出自粛・規制でお金の使い道が依然家電に向かっており、テレビもパソコンも21年前半の需要は強そう」と指摘する。目先の消費をけん引するテレビやパソコンの生産がパネル不足で遅れれば、世界の経済回復やデジタル化など新生活様式の進展に足かせとなりかねない。

「パネル価格が上がった分が、現在発売されている最終製品にまだ転嫁されていない」(田村氏)という課題もある。足元では国内の家電量販店でも液晶テレビの店頭価格は値下がり傾向だが、21年以降の新製品の価格動向によっては消費者の購買意欲を冷やす可能性もある。

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