韓国サムスン電子が転換点に立っている。スマートフォンやテレビ、半導体メモリーなど世界首位の製品群をそろえ、時価総額52兆円はトヨタ自動車の2倍超とアジアを代表する巨大企業となった。だが、その背後には今、中国の影が忍び寄る。中興の祖、李健熙(イ・ゴンヒ)会長が2020年10月に死去し、その長男で現トップの李在鎔(イ・ジェヨン)副会長は21年1月に再収監が決まった。巨艦サムスンはどこへ向かうのか。

20年11月、韓国・水原市の地方裁判所403号法廷。「この図面が中国に渡れば、被害金額はどれほどだったか」。女性検事の冷たい声が響く。被告人席に座るのはベージュ色の留置所支給服を着た元サムスンディスプレーの首席研究員ら。サムスンが持つ有機ELパネルの製造技術を流出させたとして、水原地検産業技術犯罪捜査部が20年8月に3人を逮捕・拘束した。





逮捕容疑は、産業技術流出防止法違反。首席研究員らは装置メーカーとともにサムスンの技術を使ったディスプレー製造装置を開発して中国メーカーに売り渡そうとしていたとされる。逮捕時に地検は「素早い捜査によって中国への流出を未然に防いだ」と胸を張った。
捜査の端緒は韓国政府の情報機関「国家情報院(国情院)」の内偵だった。国情院は韓国の軍事政権下で暗躍した「中央情報部(KCIA)」が前身。内部には技術流出を阻止する「産業機密保護センター」という部署が存在し、先端技術の流出に目を光らせる。サムスン内部の国情院の協力者が、被告となった首席研究員らの動向を監視していたという。

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