Samsung TV 6L9xFIG韓国サムスン電子が次世代テレビの戦略を絞りきれないでいる。「液晶の次」として期待した有機ELテレビではライバルのLG電子が先行し、有機ELを改良した独自技術「量子ドット(QD)ディスプレー」を巡っては事業部間の不協和音も聞こえる。テレビ世界首位のサムスンの悩みは、液晶の時代が当面続くことを暗示しているようだ。

7月29日、サムスンの決算発表後の電話会見で、サムスンディスプレーの崔權永(チェ・クォンヨン)専務は「ブラウン管から液晶への転換後、長く停滞していた大型ディスプレー市場にパラダイムシフトを起こす」と話した。アナリストから新型ディスプレーについて問われ、特殊な素材を用いて色彩を調整するQDディスプレーに注力する姿勢を強調したものだ。





QDディスプレーは直径数ナノ(ナノは10億分の1)メートルの「量子ドット(QD)」と呼ぶ半導体微粒子の膜を通して光のエネルギー状態を変換し、映像をより色鮮やかに映し出すディスプレーだ。

サムスンが年内の量産を目指すQDディスプレーは、青色の有機EL発光材料の光の波長を量子ドット技術で調整し、青の光を緑と赤に変えて「RGB(赤緑青)」を表現する新型のディスプレーだ。白色の有機ELの光をカラーフィルターに通してRGBに変換するLG方式の有機ELパネルに比べて、より高い色彩再現性を持つとされる。

ただ、現時点では技術面とコスト面で大量採用のハードルは高い。テレビはスマートフォンなどと比べて長期にわたる10年単位の製品寿命が求められる。青色の有機EL発光材料は放出エネルギーが大きい短波長の青色を発光させ続けなければならず、耐用年数が短いことが商用化の障壁となっている。

日本の出光興産やドイツのメルクなど化学大手やスタートアップ企業の研究開発によって耐用年数は改善しているものの、コスト競争力では既に大量生産が軌道に乗っているLGの「白色有機EL」方式に軍配があがる。

サムスン電子でディスプレーの開発・量産を担うのは子会社のサムスンディスプレーだ。しかし実際にテレビに採用するかどうかは、サムスン電子本体の「VD(ビジュアルデバイス)部門」が権限を持つ。取引先によると、サムスン内部のテレビ部門がQDディスプレーの高コストに難色を示しているという。

年間売上高23兆円で多様な事業を抱えるサムスンは事業部門ごとに独立心が強く、完成品部門と部品部門が丁々発止で交渉する傾向が強い。特にテレビは台湾や中国のパネルメーカーからも大量調達しており、サムスンディスプレーも「サプライヤーの1社にすぎない」(サムスン幹部)との意識が強い。

そして今、サムスンディスプレーが営業攻勢を仕掛けるのが競合のソニーだ。ソニーは高品質を求める顧客に絞ってテレビを展開しており、調査会社の米DSCCによると、ソニーはテレビ大手で唯一、平均単価が1000ドル(約11万円)を超える。先端品を求めるソニーであれば、ディスプレーの単価が高くても買ってくれるとの思惑もある。

QDディスプレーに自信を持てないサムスンのテレビ部門も次世代ディスプレーの本命候補を持つわけではない。それは現在のサムスンのラインアップを見てもわかる。

サムスンは液晶テレビにQD技術を適用した「QLED」や、QLEDのバックライトのLEDを細かく敷き詰めた「ネオQLED」、さらにLED素子がそのままRGBを表現する「マイクロLEDテレビ」といった複数の描画方式のテレビを販売している。既存の液晶テレビとの違いを強調し、他社ブランドとの差異化を図ってきた。

世界シェア首位を維持していることから、サムスンのブランディング戦略はある程度奏功している。しかし証券アナリストは「液晶の次は明確ではない」と指摘する。

英調査会社オムディアによると、2020年のテレビ出荷台数2億7620万台のほとんどは液晶で、有機ELテレビは450万台と2%にとどまる。この比率は25年推計でも5%弱と、当面は液晶パネルがテレビ市場で支配的とみられている。

かつてシャープ首脳は「液晶の次も液晶」と豪語し、液晶時代が続くとの見通しを示した。基幹部品の液晶パネルの供給主体は中国勢に集約される見通しだが、先行組の日本や韓国のパネルメーカーが新しいものを生み出せていないのが実態だ。

電機業界でコモディティー(汎用品)化の象徴とされたテレビ市場で、どのように独創的な価値を生み出すのか。世界首位に15年君臨するサムスンも、その答えをまだ見つけられていない。

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