このところ、全世界的なインフレ懸念が高まっている。2021年後半から原油価格が大幅に上昇していることや、ウクライナ情勢を受けて食糧不足が深刻になっていることなどが背景とされる。確かに両者がインフレの主犯であることは間違いないが、今後、さらに大きな要因が加わる可能性が高まっている。それは中国の構造転換である。

●日本だけ給料が上がらない謎

中国は過去10年、平均7%の成長を実現しており、多くの調査機関が2030年前後に米中の経済規模が逆転し、中国が世界最大の経済大国になると予想している。
一方で、中国は成長率の鈍化という大きな問題に直面しつつある。成長率が鈍化しているのは、社会が豊かになり、途上国としての成長力が失われたからである。社会が成熟化し、成長率が鈍化することを「中所得国の罠」と呼ぶが、成長を実現した多くの国が経験する出来事といってよい。






しかしながら、中国は安価な労働力を武器に、大量の安い製品を輸出してきた「世界の工場」である。こうした国の成長が止まることは各国経済に極めて大きな影響を与える。中国の1人当たりのGDPは日本の約3分の1しかないが、それは内陸部など所得が著しく低い地域が平均値を押し下げているからである。中国の都市部では既に日本と同レベルの豊かさを実現しており、それに伴って人件費も高騰している。

■成長率の鈍化を警戒し「双循環」への移行が進む

生産を1単位増やすのに必要な労働コストのことをユニット・レーバー・コスト(ULC)と呼ぶが、実は現時点で既に中国と日本のULCはほぼ拮抗しており、場合によっては日本で生産したほうが安上がりなケースも出てきている。つまり中国はもはや低価格な製品を大量生産する国ではなくなっているのだ。

中国政府は社会の成熟化とそれに伴う成長率の鈍化について強く警戒しており、経済政策の転換を進めている。具体的には、高成長を前提とする輸出主導型経済から、国内の消費を主軸とする内需主導型経済へのシフトである。

中国政府は、外需に加えて内需を成長の柱に据えるという意味で、新しい経済構造を「双循環」と呼んでいる。もし中国が本格的に双循環経済への転換を進めた場合、最も大きな影響を受けるのは、中国製の安い工業製品に依存してきた西側諸国だろう。

中国の輸出金額は過去2年で急激に増加しており、現在では20年6月との比較で約1.5倍になった。だが輸出数量は21年以降は横ばいで推移しており、輸出金額増加分の多くは製品価格の上昇によるものである。

これは世界的な資源価格の高騰を受けたものだが、中国の人件費高騰も大きく影響している。中国の人件費が上がるにつれて、低付加価値の製品の輸出から撤退する中国メーカーが増えると予想される。

西側各国は中国に代わる製品供給基地を探す必要に迫られるが、中国のように安価なコストで大量の製品を製造できる国はほかに存在しない。各国は、低付加価値の製品についても割高な価格で購入せざるを得なくなり、現在、進行しているインフレがさらに激化することが懸念される。

中国の成長率が鈍化するということは、中国が安い製品を売る国から、安い製品を買う国に変貌するということであり、日米欧と中国が相互補完関係でなくなることを意味している。

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