Screenshot 2022-07-04 07.20.14シャープの先行きに不透明感が増している。株価は年初から2割低く、証券アナリストの業績予想も会社発表を下回る。主因は6月27日に完了した液晶パネル工場を運営する堺ディスプレイプロダクト(SDP、堺市)の買収だ。かつて経営危機を招いた工場で、パネルの市況変動リスクをシャープが再び抱え込むことになる。親会社、鴻海(ホンハイ)精密工業の意向だが、市場も社内もその真意を測りかねている。

「なぜパネル価格が高騰した時に買収を決めたのか。株主に対する裏切りではないか」。6月23日の株主総会で株主から、新社長の呉柏勲氏ら経営陣へ批判が相次いだ。SDP株の2割を保有していたシャープは残りの株をサモアの投資会社から取得した。新株発行を絡めた株式交換で実施し、費用は単純計算で約400億円に上る。

呉社長は株主総会で「3年以内にSDPを黒字化したい」と説明した。SDPは21年12月期、パネル価格の上昇で4期ぶりの黒字だった。しかし呉氏の発言から考えると、現在は厳しい状況にあるもよう。みずほ証券の中根康夫シニアアナリストは「SDPは22年12月期に150億~200億円の営業赤字の可能性がある」と分析する。





Screenshot 2022-07-04 07.20.41会社はテレビ向けパネルなどの安定調達を理由に挙げる。半面で今後はパネル市況の変動がシャープの業績に直結する。現在は巣ごもり需要の一巡でテレビ需要が減退し、パネル市況が悪化している。シャープ幹部も「時期が微妙だ」と首をひねる。

現在のSDPの工場は、シャープが09年までに計4300億円を投じて稼働させた。中国や韓国のメーカーとの価格競争で採算が悪化。シャープは13年3月期に過去最大の5453億円の最終赤字を計上した。

鴻海は経営の悪化したシャープを16年に買収。鴻海創設者である郭台銘(テリー・ゴウ)氏の資産管理会社がSDP株の過半を取得した。シャープ救済のために、SDPを切り離した格好だ。ゴウ氏の資産管理会社は19年までに保有株を売却していた。

関係者によると買い戻しは、鴻海と同社出身で16年から経営トップだった戴正呉氏の意向で決まった。戴氏は3月、社員向けメッセージで「SDP売却は父親の家業がうまくいかず、子供を養子に出したような状態。家業が回復した時、父親は周囲からどれだけ強い反対があっても、子を取り戻したいと思うものだ」と説明していた。

徹底したコスト削減など鴻海流の経営改革で18年3月期から最終黒字が定着し、再建を果たしたのは間違いない。QUICK・ファクトセットによると、経営の効率性を示す指標である総資産利益率(ROA)は22年3月期で3.8%だった。ソニーグループ(3.1%)、パナソニックホールディングス(3.4%)を上回る。

ところが「実力値ではない」(大和証券の栄哲史アナリスト)との見方もある。

ROAは総資産回転率と売上高純利益率に分解できる。シャープは22年3月期、SDPの業績が改善して持ち分法投資利益が増加し、為替差益も押し上げ要因となった。一過性の側面が強い利益が加算され、売上高純利益率を押し上げた。

21年3月期も広島県の電子部品工場の売却益があった。新型コロナウイルス禍の打撃を受けた20年3月期は例外として、19年3月期も本社の土地の売却益があった。いずれも一過性の利益が売上高純利益率を引き上げている。

総資産回転率はまだ自己資本が薄いため高く出やすい。ソニーグループは金融事業を手がけ総資産が大きく、パナソニックホールディングスは自己資本が厚い。

本業の稼ぐ力を示す売上高営業利益率をみると様相は違う。シャープの22年3月期は3.4%と、鴻海が買収した17年3月期(3.0%)から横ばい。大和証券の栄氏は「コスト削減は達成したが付加価値の高い事業に転換できていない」とみる。

一方、22年3月期の営業利益率はソニーグループは11.2%、パナソニックホールディングスは5.0%とシャープを上回る。ソニーグループは17年3月期から比べると4.1ポイント上昇している。

市場はシャープの業績に悲観的だ。証券アナリストの予想平均であるQUICKコンセンサスによると、23年3月期の純利益予想は396億円。会社予想を21%下回る。

頼みの綱は営業利益の約5割を稼ぐ白物家電だ。22年3月期はオーブンレンジ「ヘルシオ」などが好調で、同事業の売上高営業利益率は10.8%だった。東大阪市の家電量販店のベテラン男性販売員は「誰も考えつかない家電をつくるDNAは昔から変わっていない」と語る。

SDPの完全子会社化に伴い新株を発行し、鴻海グループ4社によるシャープへの出資比率は52.6%から49.5%に下がった。50%を下回るのは16年以来初めて。シャープは鴻海が親会社に該当し続けるのか役員の派遣状況などを踏まえて判断する。

成長性の大きい電気自動車(EV)関連の事業にシフトする鴻海。関係維持を望むシャープの意に反し、鴻海はシャープへの関心も関与も薄める可能性がある。

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