Ge帝国盛衰史 「最強企業」だった組織はどこで間違えたのか / トーマス・グリタ 【本】
Ge帝国盛衰史 「最強企業」だった組織はどこで間違えたのか / トーマス・グリタ 【本】

多くの日本人は気づいていなかったが、2000年以降のアメリカでこの100年起こっていなかった異変が進行していた。発明王・エジソンが興した、決して沈むことがなかったアメリカの魂と言える会社の一社、ゼネラル・エレクトリック(GE)がみるみるその企業価値を失ってしまったのだ。

同社が秘密主義であることもあり、その理由はビジネス界の謎であった。ビル・ゲイツも「大きく成功した企業がなぜ失敗するのかが知りたかった」と語っている。その秘密を20数年にわたって追い続けてきたウォール・ストリート・ジャーナルの記者が暴露したのが本書『GE帝国盛衰史 「最強企業」だった組織はどこで間違えたのか』(ダイヤモンド社刊)だ。
電機、重工業業界のリーダー企業だったこともあり、常に日本企業のお手本だった巨大企業の内部で何が起きていたのか?





GEのロゴは、世界で最も識別しやすいものの一つだ。青地に白く4つの波形が円を描くように配置され、19世紀中頃の卓上扇風機の羽根を思わせる。円の中央には、数十年前にわずかに変更された筆記体で「GE」の2文字が記されている。

 このコーポレートロゴのGEでの正式名称は「モノグラム」〔組み合わせ文字〕だが、昔の人は愛着を込めて「ミートボール」と呼ぶ。

 このコングロマリットは1世紀以上にわたり、この特徴的なロゴを、目眩がするほど多様な製品─自ら開拓した事業、買収した事業、あるいは一時的に手を出した事業から生まれた製品─に刻印してきた。ジェットエンジン、超音波診断器、風力タービン、テレビ、融資契約、時計付きラジオ、トースター、原子炉、電球、セキュリティ・システム、シリコン・コーキングチューブ、戦闘機の機関砲、機関車、洗濯機などだ。モノグラムが付けられたGE製品の総価値は300億ドルに迫るという試算もある。

 1892年の創業以来、GEは単なる企業ではなく、米国そのものを代表する企業であり続けた。何十万人もの従業員にとっては人生の当たりくじ、株主にとっては損をする心配のない賭けだった。幹部社員にとってはエリート養成機関であり、そのうちの一部の者にとっては巨万の富に続く道でもあった。GEは米国に電気を供給し、最大のマシンを動かし、社会に深く根を下ろした。GE以外にそんな企業はない。

 人びとはGEに米国政府と同等の信頼を置いた。エジソンの工作台とJPモルガンの金融力が合体して生まれたGEは、中産階級に力を与え、軍事力を強固にし、国民の金融資産を爆発的に増やしながら、近代アメリカの台頭と歩調を合わせて進む巨大金融機関へと変身を遂げたのである。

 GEは国の成長と共に成長し、時代と共に進化し、創業以来最大の力を蓄えて21世紀に歩を進めた。2000年のピーク時には、米国で最も価値のある企業となり、その企業価値は6000億ドルに迫った。境界を知らない広大な事業領域で、先進国の膨大な人口に影響を与えた。

 GEの工業機械や消費財は、国中に電力網を張り巡らせ、居間やキッチンを照らした。GEのエンジンは、米国の戦闘機や旅客機、大統領専用機を世界の空で飛ばせた。金融サービスはマクドナルドのフランチャイズ店の新規オーナーを支援し、石油や穀物や木材を運ぶ鉄道車両をリースした。超音波診断器は妊婦に胎児の画像を見せ、X線検査装置は折れた骨を映し出し、MRI〔磁気共鳴断層画像〕装置は臓器をスキャンして癌を見つけた。米国人はGEの冷蔵庫からスナックを取り出し、ソファにもたれて、GEがつくった人気テレビ番組の『となりのサインフェルド』や『フレンズ』を観た。GEは工業系企業だが、あらゆるものを売った。

GE終焉の深い意味
 それから20年も経たないうちに、ミートボールはまだ至る所で見られるものの、GEは想像できないほど衰えてしまった。

 いまでも世界に数百の拠点を有する巨大企業だが、株価はピーク時の一欠片にすぎない。もはやメディアの寵児でもなく、アナリストのお気に入りでもなく、ダウ・ジョーンズ工業株平均の銘柄でさえなく、気前のよい配当も消え去った。かつてGE株は投資初心者のポートフォリオに欠かせない銘柄だったが、いまでは投機的銘柄と認識されている。一世代前にそんな見方をしたら、株式市場で異端児扱いされただろう。

 ドルとセント、そして雇用者数で見れば、GEの凋落は短期間のうちに起こった。年金生活者や退職者は人生の後半で、当てにしていた金が消えていくのを目の当たりにした。何千人もが職を失い、首のつながった従業員も将来の不安を抱えることになった。解雇を免れた従業員の多くも、GEが存続に必要な現金と引き換えに歴史の一部を売却したため、別の名前の会社で働くことになった。しかし、米国人が知るGEの終わりは、そんな目に見える崩壊が起こるずっと前から始まっていた。

 ある重要な一点で、GEの終焉には株価では表せない深い意味がある。従業員や幹部社員、その家族の痛みや失望をも超える、深い意味だ。何世代にもわたって米国企業にすぐれた経営の意味を教えてきた企業の崩壊は、それほど大きな問題を提起しており、それはまだ解決されていない。

 GEを追いかけ、模倣してきた他の多くの企業の成功は、どこまでが本物なのか? どこからが彼らの─そして私たちの─想像の産物なのか?

巨大企業が崩壊するとき、内部で何が起こるのか?
 パナソニック、東芝、ソニー、日立製作所、三菱電機、三菱重工、IHIといった日本の電機、重工業業界を中心とした大企業にとってGEは常にお手本でした。GEは日本企業に家電ビジネスを奪われ、その日本企業は中国に家電事業を奪われ、GEが採った「選択と集中」の戦略に日本企業が学ぶということが行われてきました。

 GEは業績不振から家電事業を含むさまざまな主力事業を売却、分割し続けた結果、かつての超巨大コングロマリットの面影はいまや薄く、近年では「GEの解体」が囁かれるほどに変貌してしまいました。ジャック・ウェルチ、ジェフリー・イメルトをはじめとするカリスマとして知られた経営者たちはどこで間違ったのか? それは、21世紀のビジネス界の謎の1つでした。

 その謎を、ウォール・ストリート・ジャーナルのGE番記者が本書で解き明かしています。20数年にわたる秘密主義で知られるGEの内部の詳細な変化をはじめて暴露したのです。

 ビル・ゲイツが「2021年夏の推薦図書5冊」の筆頭に選んだことで、邦訳刊行前から注目されていた本書。「大きく成功した企業がなぜ失敗するのかが知りたかった」とビル・ゲイツが長年抱いていたという疑問への答えを、ぜひ本書で読み解いてください。

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