Screenshot 2022-08-26 07.39.54中国電子機器大手、聞泰科技(ウィングテック)が同国内で大規模なパソコン工場の建設を進めている。関係者によると、米アップルが供給先との見方が広がる。アップル製品の生産受託は、これまで台湾メーカーの牙城だった。ウィングテックは受託をテコに技術力をアピールし、グローバル企業からの受注増を狙う。

「第2期工場の従業員を(当初計画の)1万5000人から、2万人余りに増やすことを決めたばかりだ」。南部・雲南省の省都である昆明市。7月にウィングテックの昆明工場を訪れると、採用担当者はこう述べた。

この工場は標高約1920メートルの高地にあることから「ウィングテック1920ハイランド」と呼ばれる。総面積はサッカー場約80面に相当する広さで、足元では第2期の工事が急ピッチで進んでいた。





第2期の投資額は約30億元(約600億円)に達し、近くパソコンやスマートフォンの生産を始める計画だ。注目されるのはパソコンの供給先だ。ウィングテックや地元政府の関係者によると、アップルの「MacBook(マックブック)」の可能性が高いという。日本経済新聞はウィングテックとアップルにコメントを求めたが、回答は得られていない。

マックブックの組み立ては難易度が高く、従来は台湾の電子機器受託製造サービス(EMS)大手の広達電脳(クアンタ)と鴻海(ホンハイ)精密工業の2社が請け負ってきたとみられる。

同じ台湾勢でも仁宝電脳工業(コンパル)や緯創資通(ウィストロン)といった有力なパソコン受託企業ですら受注できなかっただけに、世界的には無名に近いウィングテックの躍進に業界では驚きが広がる。

ウィングテックは、スイス半導体大手のSTマイクロエレクトロニクスや中国通信機器大手、中興通訊(ZTE)などでエンジニアなどの経験を積んだ張学政・董事長が2006年に設立した。小米(シャオミ)など中国ブランドのスマホの組み立て受託で地歩を固めて急成長した。

足元ではM&A(合併・買収)で技術力を高める戦略をとる。19年にオランダ半導体大手、NXPセミコンダクターズをルーツに持つ半導体企業ネクスペリアを252億元で買収。21年には、中国同業の欧菲光集団(オーフィルム)から工場の一部を取得した。オーフィルムはアップル向け生産を手掛けていたとされる工場を抱える。

積極的な企業買収の裏には、地方政府との強力な結びつきがある。昆明市政府系のファンドや江蘇省無錫市傘下の投資会社、安徽省合肥市系のファンドなどが大株主に名を連ねる。地方政府から資金を得る見返りに、工場で雇用を創出する構図だ。

一連の取り組みで、21年12月期の売上高は前の期比2%増の527億元、純利益も8%増の26億元とそれぞれ伸びた。昆明の第1期工場ではOPPO(オッポ)やvivo(ビボ)など中国ブランドのスマホを組み立ててきたという。

完成品でなく、IT(情報技術)部品を含めれば、既にアップルや韓国サムスン電子、中国レノボ・グループ向けの生産も請け負っているとみられる。今回のマックブックの受託生産が軌道に乗れば、技術力をさらに高める機会となり、アップル以外のグローバル企業からの受注拡大につながる可能性もある。

ウィングテックによるマックブックの生産受託は、米中対立に対応したアップルの戦略にも合致するとの見方は多い。

両国の対立が深まるなか、ハイテク製品の製造について、中国に依存しないサプライチェーン(調達網)の整備は課題となっている。国際社会では、同じ価値観を共有する国家間でサプライチェーンを整備する「フレンドショアリング」の考え方が浸透しつつある。

また、ペロシ米下院議長の訪台を機に緊迫感を増す中台対立への対応も重要となっている。

アップルはスマホ「iPhone」やタブレット端末「iPad」といった主要製品の大半について、台湾企業に生産を委託してきた。その工場の多くは中国大陸に点在しており、アップルには生産面で地政学上のリスクが高まる。

そこで、アップルは最近、中国国内での生産について、台湾企業への依存リスクの軽減とも受け取れる動きを示す。

アップル生産受託を手掛ける多くの台湾企業は、ベトナムやインドなど中国大陸以外に生産拠点を設ける動きを進めている。

一方、アップルは中国大陸では中国勢への生産委託などを進める。

関係者によると、中国EMS大手の立訊精密工業(ラックスシェア)は台湾勢からiPhoneの生産拠点を買収し、新工場の建設を進める。EMS事業も手掛ける電気自動車(EV)大手の比亜迪(BYD)はiPadの生産を請け負う。

ワイヤレスイヤホン「エアポッズ」でも、台湾勢に交じり、ラックスシェアや中国の歌爾声学(ゴーテック)が生産を手掛けている。

米中、中台それぞれの対立先鋭化で台頭してきたウィングテック。勢いそのままに、昆明の工場などでは半導体事業も強化する方針を打ち出す。

半導体分野は米国が中国の「弱み」として制裁対象にしてきた。それだけに、ウィングテックのさらなる事業領域の拡大は、経営の逆風になる恐れもある。

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