“テレビの映らないテレビ”が大人気だ。急成長する市場へ参入する企業が相次ぐなか、製造ノウハウも設備も有する大手家電メーカーはなぜか揃って静観を決め込んでいる。そこには参入したくてもできない“不都合な真実”があるという。

「チューナーレステレビ」とは、地上波用チューナーを内蔵していない代わりに、NetflixやYouTubeなどネット動画を視聴できる基本ソフト「Android TV」を搭載したテレビのことだ。  地上波は映らないため、放送法第64条が定める「対象機器」に該当せず、SNS上では“NHK受信料が不要なテレビ”として大いに話題になっている。

 昨年12月、大手ディスカウントストア「ドン・キホーテ」が24型(2万1780円)と42型(3万2780円)のチューナーレステレビを計6000台発売したところ、約1カ月で完売。その後、液晶テレビなどを製造する「ユニテク」や全国にレンタルビデオショップを展開する「ゲオホールディングス」、家電量販店チェーン「エディオン」などが相次いで参入し、いずれも想定を上回る好調な売行きを見せているという。





 人気の背景について、さる参入メーカーの担当者がこう話す。

「いまの若い子たちはテレビを観るという習慣がなく、もっぱら観ているのはYouTubeなどのネット動画。スマホのように充電時間を気にすることなく視聴でき、また50型でも4万円台前半とお手頃な価格帯がウケているようです。それ以外にも、ご家庭でテレビを買い替える際、国内メーカー製の大画面だと10万円以上の出費となることに抵抗感を覚える親世代も増えていて、人気を下支えしています」

 地上波は映らないといっても、観たいテレビ番組があれば配信アプリ『TVer(ティーバー)』を経由すれば視聴できるので「チューナーレスで事足りる」と考える人が増えているそうだ。

株主に名を連ねる大手家電メーカー
 現時点でチューナーレステレビを販売する企業は異業種からの参入組や新興メーカーなどが占め、パナソニックなど大手家電メーカーの多くは製造や販売に乗り出していない。

 その理由について「まだ市場が成熟していない」や「テレビというよりモニターに近く、利幅が薄い」などの声が上がるが、取材を進めると複数の放送業界関係者が東京・渋谷区にある「ビーエス・コンディショナルアクセスシステムズ」という会社の名前を挙げた。

「ビーエス社は地デジチューナー搭載のテレビに装着されているB-CASカードを独占的に発行している会社で、このカードがないと地デジ放送を視聴できない。著作権保護の名目でデジタル放送にかけられているスクランブル(暗号化)信号をB-CASカードによって解除し、視聴が可能になる仕組みです」(民放キー局関係者)

 ただし無料放送にスクランブルをかけること自体、「不要」との声が根強くあるのも事実で、チューナーレステレビには当然、B-CASカードは装着されていない。ちなみに地デジ対応テレビを買った時に同梱されているB-CASカードはビーエス社から各製造メーカーに支給されたもので、B-CASカードの所有権は同社が保持。テレビ購入者はあくまでカードを「貸与」されているに過ぎない。

 これまでビーエス社が発行したB-CASカードの累計枚数は約2億8595枚。最新決算の売上高は28億7800万円(2021年3月期)だが、かつては142億円超を売り上げた年も。資産に計上された現預金は現在40億円になる。

 実は大手家電メーカーは同社の株主であり、かつ深い取引関係にもあるのだ。

 ビーエス社の代表取締役はNHKからの天下りで、NHK時代の役職はメディア企画室長。株主の出資比率はNHK(20.99%)にWOWOW(20.18%)、そしてパナソニック(13.96%)、日立(同)、東芝インフラシステムズ(同)などと続き、各民放キー局のBS放送会社も名を連ねる。

 ビーエス社に収入源を訊ねると、

「(民放キー局など)放送事業者からのカード使用料と、(大手家電)メーカーからの(カード)取扱い手数料が収入元になる」(同社広報室)

 と回答。また「当社はB-CAS方式と共通インフラを一元的に管理・運用するために、放送事業者と受信機メーカーの協力で設立された」(同)とも説明した。

 つまりチューナーレステレビ事業への参入は大手家電メーカーにとって「利益相反」行為になり得るわけだ。もちろん民放キー局にとっても、B-CASシステムの枠外にあるチューナーレステレビの存在は「皮肉にも“テレビ離れ”を加速させる新しいテレビ」(前出・キー局関係者)と映っている。

『ビエラ』ブランドの液晶・有機ELテレビで知られるパナソニックにもチューナーレステレビ事業に参入しない理由などを訊ねたが、

「ニーズの変化・多様化を踏まえ、様々なお客様のテレビの使い方に対応できる商品を市場に投入しております」(グループ広報)

 との回答にとどまった。

 さらなるシェア拡大が、この摩訶不思議な「利権構造」を突き崩すか。

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