広島大学1シリコンは太陽電池、またスマートフォンや車の電子部品にも使われ、現代社会の根幹を支える半導体材料です。
一方、シリコンは発光体としての性質はあまり優れてなく、実用化には至っておりません。その理由は、シリコンの発光(赤外線)は肉眼では見えず、また発光効率は0.01%程と低く、発光材料には向いておりませんでした。  

理学研究科の大学院生 藤本啓資 氏(博士課程前期修了)、理学部学生 早川冬馬 氏、自然科学研究支援開発センター(研究開発部門)の齋藤健一教授らの研究グループは、光の三原色(赤・緑・青)で発光するナノシリコン(シリコン量子ドット)溶液の合成、フレキシブルな量子ドットフィルムの作製、更にそれらの加速劣化試験に成功しました。
その結果、赤(34%)、緑(20%)、青(12%)の高い発光効率を示し、特に青色シリコン量子ドットは大変高い耐久性を示し、その高い耐久性の起源は表面構造(シロキサン修飾(※1))にありました。





具体的には、青色シリコン量子ドットフィルムを1週間以上過酷条件(太陽光また80℃の熱水)に暴露しても、85%程の発光性能(強度、発光効率)が維持され、劣化は15%程でした。
電子機器の加速劣化試験は温度85℃湿度85%で行われることが多いですが、更に過酷な炎天下での太陽光照射、熱水への浸漬(温度80℃、湿度100%)での成果です。
なお、太陽光や高温・高湿に対するシリコン量子ドット、その量子ドットフィルムの耐久性の研究は、これまで報告がありませんでした。その他、6種類の実験より、発光の劣化の機構、三原色発光の機構(赤:量子閉じ込め効果(※2)、青・緑:表面効果(※3))も解明しました。

  量子ドットを用いた大型TVやタブレットは、近年世界中で販売され始めています。一方、流通品は主にインジウム(産出地域が限られる希少金属)系量子ドットで、また研究で主力の量子ドットはカドミウムや鉛(公害を懸念)を含みます。従って、汎用的な材料で、毒性がなく、重金属フリーのサステナブルな発光体が世界中で模索されています。
シリコンは重金属ではなく、その原料は砂・石です。使用後の廃棄も鑑み、安全・安心・安価な発光体として、マイクロLED、VR、AR、折り曲げディスプレイ、照明、生医学イメージングでの実用化が、SDGsの視点からも期待されます。