20221207_2_fig理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター 創発物性計測研究チームのクリストファー・J・バトラー 研究員、幸坂 祐生 上級研究員(研究当時、現創発物性計測研究チーム 客員研究員、京都大学大学院 理学研究科 教授)、花栗 哲郎 チームリーダー、名古屋大学大学院 理学研究科 理学専攻 物理科学領域の山川 洋一 講師、大成 誠一郎 准教授、紺谷 浩 教授らの国際共同研究グループは、バリウムとニッケルの硫化物BaNiS2において、質量を持たない電子(ディラック電子[1])とあたかも液晶[2]のように振る舞う電子が共存していることを発見しました。

 本研究成果は、非常に珍しい電子状態であり、全く新しい物性を実現する舞台として期待できます。





結晶構造が特別な幾何学的対称性[3]を持つ物質や、電子状態がトポロジー[4]的に非自明[5]な物質では、電子の質量がゼロになることがあります。一方、電子間の斥力相互作用(電子相関[6])が強い遷移金属化合物[7]では、高温超伝導[8]やさまざまな磁性など、非自明で役に立つ現象が観測されます。これらの対称性・トポロジーに立脚した物質の研究と電子相関の研究は、現代物性物理の二大潮流ですが、それぞれの効果が著しい物質は異なっている場合が多く、両者の共存・競合を研究することは困難でした。

今回、国際共同研究グループは、BaNiS2では、質量を失ったディラック電子と電子相関によって生じた液晶のように方向性を持った電子が共存していることを走査型トンネル顕微鏡/分光法(STM/STS)[9]を用いた実験とその理論解析から明らかにしました。これにより、対称性・トポロジーと電子相関が織りなす創発現象探索の扉が開かれたことになります。

本研究は、科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)』オンライン版(12月2日付)に掲載されました。