conductive material molecule structureシカゴ大学の研究チームが、プラスチックのように製造でき、金属のように電気を伝える材料を発見した。Ni原子を介して複素環式有機硫黄化合物を直鎖状としたアモルファス配位高分子の積層構造であり、高い電気伝導性を示すとともに金属ガラス挙動を示すことで粘土のように自在に変形できる。
従来の導電性高分子と異なり、高温や湿気、酸やアルカリに対して高い安定性を発揮することから、エレクトロニクスに向けた新しい材料分野の可能性を切り拓くと期待される。研究成果が、2022年10月26日の『Nature』誌に公開されている

ノーベル化学賞に輝いた白川英樹博士たちの研究によって、1970年代に導電性高分子が開発され、現在では透明タッチパネルやリチウム電池の電極、有機ELディスプレーなどに広く応用されている。ポリアセチレンのような導電性高分子は、化学ドーピング処理によって自由に動ける電荷キャリアが注入されることで導電性を発揮している。
金属に比べて柔軟性があり製造が容易であるメリットがある一方で、湿気や高温、酸やアルカリに曝されると導電性を喪失するなど、必ずしも充分に安定ではないという問題があり、安定性を向上させた芳香族共役化合物や複素環共役化合物などの開発も進んでいる。






これまで知られている導電性高分子が、金属と同様に規則的な原子配列を持つ結晶構造を採るのに対して、研究チームは不規則なアモルファス構造とすることでさまざまな環境に対する耐久性を確保することにチャレンジした。その過程で、何年も前に発見されたが殆ど無視されてきた、複素環式有機硫黄化合物がNi原子を介して直鎖状となった、アモルファス配位高分子のNi-テトラチアフルバレン-テトラチオレート(NiTTFtt)積層構造に着目した。

その結果は驚くべきことに、最大1200S/cmの著しく高い電気伝導度を示すとともに、粘土のように自在に変形できる金属ガラス挙動を示すことが判った。更に、従来の導電性高分子と異なり、湿気に対して数週間も安定であり、また140℃までの高温やpH=0~14の酸やアルカリ環境に対しても高い耐久性を示すことを明らかにした。分子構造が不規則でアモルファス状でありながら高い電気伝導度を示すことについて、研究チームは当初「この材料が持つ諸特性を明確に説明できる理論が見当たらない」と考えたが、NiTTFttの積層構造が互いに分離積層しており、「まるでラザニヤのように、積層が崩れても互いに接触している限り、電子は依然として水平または垂直に移動できる」と説明している。

金属の場合、チップやデバイスの部品に成形するには高温過程が必須で、デバイスや部品が熱、酸やアルカリなどの環境に耐えなければならず製作面で限界がある。NiTTFttは電気伝導度を維持しつつ常温で自在に成形できることから、チップやデバイス製造に新しい選択肢をもたらすとともに、エレクトロニクスに向けた新しい材料分野の可能性を切り拓くと期待される。研究チームは、2Dや3Dや多孔質など多様な形状や、他の架橋や結節の導入による新しい機能を追求する研究も実施している。