まずは、液晶そのものの発見に物語があります。
液晶はオーストリアの植物学者 Friedrich Reinitzer(ライニッツァー)によって発見されています。1888年、明治21年のことです。
彼はコレステロールの研究中に、コレステロールの安息香酸エステルの結晶を加熱していくと、145.5℃で溶けて白く粘り気のある液体になり、さらに178.5℃で透明の液体になることを発見したのです。つまり2つの融点が存在する事を見つけたのです。
普通の材料は融点が2つあるということはありません。水も鉄も融点はある決まった温度ですよね。
実は他の生物学研究者も以前からこの現象には気づいていたのですが、これは不純物の影響だと思い込んでいたのでした。



ライニッツァーの偉いところは、生物学者として材料の基礎的な性質についてはあまり詳しくないということを覆い隠さずに、ありのままの不思議な発見をある物理学者に相談を持ちかけたことでした。
ドイツのレーマンという学者でした。彼が当時は最先端の機器である加熱式偏光顕微鏡を持っているということを知っていました。ドイツ・イタリア・オーストリア同盟という同盟関係にあったことも科学者間の情報や交流に影響があったかもしれません。
レーマンはこの不思議な液体を偏光顕微鏡で観察し、ある現象を確認しました。
それが、複屈折という現象です。
複屈折は異方性を持つもの、つまり結晶でしか起こらない現象というのは当時から知られていました。
液体の状態なのに、この結晶のような性質を持つということで「流れる結晶について」という論文を書いています。
このタイトル、当時の驚き度合いがストレートに表現されていて、一級の発見であることがうかがい知れると思いませんか?
これをきっかけに、色々な材料が分析され、「流れる結晶」という起源から「液晶(Liquid Crystal)」という命名に至ったようです。

ライニッツァーの真実を追う真摯な姿勢、自身の専門分野の垣根を越えてレーマンへ分析を依頼したこと、そして当時の国際関係、こういったものが折り重なってこの偉大な発見に至ったと思います。

なお液晶とは物質のことを言うのではなく、物質の状態のことを言います。気体、液体、個体と同列で液晶というものがあるのですね。