山形大学有機エレクトロニクス研究センターの時任静士卓越研究教授のグループと宇部興産は共同で、有機溶媒に溶ける新しいN型有機半導体材料を開発。電子移動度が3cm2/Vsを超え、かつ空気中で安定という高性能なN型有機トランジスタを印刷法で作製することに世界で初めて成功した。この技術は、現在主流のシリコンなど無機材料で製造するよりも、低価格で軽量、さらに柔らかさを備えた集積回路(IC)を製造可能にする。
空気中での安定性と、液晶ディスプレイなどに使われるアモルファスシリコンで一般的な0.5-1cm2/Vsを超える、3cm2/Vsという高い電子移動度を兼ね備え、さらに印刷法が適用できるN型有機半導体は、これまで開発の報告例がなかった。有機溶媒に溶ける性質と、高い電気特性を併せ持つ有機半導体を開発したことで、オール印刷プロセスでの安価でフレキシブルな有機集積回路の実用化が大きく加速する。
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今回の研究成果は、課題となっていたN型有機半導体の安定性を大幅に改善し、しかも有機溶媒に溶けやすい性質と、高い電気特性を両立する有機半導体を開発した点にある。この材料を用いることでP型、N型両方の半導体がそろい、低価格で低消費電力な有機集積回路の実現が可能となり、ウェアラブル、モバイル、フレキシブルといった用途に使われる新しい電子デバイスへの貢献が期待できる。
今回開発した技術は、山形大学の時任卓越研究教授らのグループと宇部興産による2011年から始まった共同研究の成果で、関連特許は出願済だ。
今回開発した新しいN型有機半導体の塗布膜は、均一性の高い緻密な薄膜を形成しており、塗布成膜条件およびトランジスタ素子の構造を最適化することで、この半導体を用いて作製した有機トランジスタで3cm2/Vs以上の高い電子移動度が得られた。
また、従来のN型有機半導体では、大気中の水、酸素によって有機半導体層の中での電子移動が妨げられやすいことが問題となっていたが、水、酸素による電子伝導への影響を大きく低減することを目的に、分子全体に強い電子受容性(電子の受け取り易さ) を付与することで、従来のN型有機半導体では実現が困難だった高い安定性を実現している。
現在、この材料を有機集積回路に応用するためのトランジスタ素子の構造の最適化と、回路の試作(例えばCMOS回路など)の検討と並行して、さらに移動度と溶解性を改善するなど、より使いやすい有機半導体とする目的で分子構造の改良を進めている。
また、この有機半導体を用いたインクジェット印刷などによる印刷集積回路の試作に取り組み、この技術を応用して、有機トランジスタを用いたRFIDタグ(無線ICタグ)、フレキシブル生体センサーやフレキシブルディスプレイなどの開発も進めている。 この成果はJST地域卓越研究者戦略的結集プログラム「先端有機エレクトロニクス国際研究拠点形成」事業の支援も受けている。