インキ世界最大手DICの中期経営計画がまもなく終わる。最終の2015年に「連結営業利益600億円」の達成を掲げてきたが、15年12月期の見込みは500億円。目標未達のままで終わる公算が大きい。主力の印刷用インキ市場の落ち込みはある。
だが、けん引役として期待していた3製品のうち、液晶のカラーフィルター用顔料と車に使う強化プラスチックが順調に伸びた半面、液晶材料が思うように伸びなかったのが未達の一因だ。戦略事業である液晶の収益改善は同社の中長期的な成長力に直結する。10%程度の世界シェアを15%に伸ばす計画の実現に向け、てこ入れに動き出した。
DICが手がけるのは液晶パネルの材料となる液晶そのもので、世界の液晶市場のほとんどを占めるTFT液晶を手がける。世界シェアは独メルクが約6割、チッソ系のJNCが約3割で、DICは約1割にとどまっている。先発メーカーの圧倒的なシェアを奪うには高い壁が立ちはだかる。



 パネルの性能を決める液晶材料には応答速度を高めたり、メーカーの製造工程で使いやすい分子構造の素材が求められる。また液晶パネルは製品のサイクルが 短く、価格下落のスピードも速い。しかし変化が激しいからこそチャンスはある。シェア15%達成に向け、DICの反転攻勢が始まった。

  一つ目が、中小型パネル用素材への参入だ。従来はテレビに使う大型パネル向け素材が中心。現在スマホなどに使われている中小型用の液晶素材は消費電力の少 なさが評価されており、テレビ用に置き換える需要が膨らむとみている。今夏から中小型用素材に参入しており、大手パネルメーカーへの供給も始まっている。

 今秋からはテレビ向けに別の新素材も投入する。パネルメーカーの製品切り替え需要に合わせ応答速度を高めたもので、カラーフィルター用顔料と一緒に提供できるのもDICの強みだ。「10~12月期の後半から戦力になる」(斉藤雅之専務執行役員)という。

  液晶の主戦場は韓国や台湾から中国本土に移行している。DICは他社に先行して13年から中国本土で生産設備を展開。青島の拠点には開発センターも設け、 現地メーカーの需要増に対応できる体制を着々と整えてきた。TFT液晶の売り上げは前期で150億円程度とみられる。だが利益率は他の事業よりも高く、売 り上げが拡大すれば利益に直結しやすい。一連の取り組みが実り、液晶が15%の世界シェアに向け、拡大軌道に乗れば足元で300円台前半で低迷する株価が 見直される可能性がある。