経営難のシャープに対し、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が支援の総額を53億ドル(提案時の為替換算で約6300億円)に積み増したことがわかった。
つられるように支援の有力候補とされる政府系ファンド産業革新機構も、当初想定していた2千億円規模の支援額を3千億円規模に引き上げた。交渉の焦点は、巨額の金融支援をしている主力取引銀行の判断に移ってきた。



■支援額 機構も3000億円に増額

 シャープは、主力の液晶事業の販売不振に苦しむ。すでにシャープと液晶で提携している鴻海は、もともと5千億円規模でシャープ全体を買収する案を示していた。

  だが、革新機構を所管する経済産業省などが、シャープが持つ先進技術が国外流出することなどを憂慮。意向をくんだ革新機構が、2千億円規模の出資や金融機 関の追加支援で液晶事業を本体から分離させる案で、交渉を有利に進めていた。鴻海はこの状況を打開しようと、提案額を上乗せした模様だ。

 ログイン前の続きそれでも革新機構側が支援の有力候補とみられている。だが、革新機構も鴻海の提案を踏まえ、1千億円規模の増額を決断。金融機関の支援を引き出す折衝も本格化させている。

  シャープには現在、約7600億円の有利子負債がある。この返済負担を軽くするのも支援の焦点だ。主力行のみずほ銀行と三菱東京UFJ銀行は昨年6月、貸 出金のうち2千億円分を返す必要がない株式に振り替える支援を実施した。革新機構は今回、2行にこの株式を放棄した上で、追加の金融支援を行うことを求め ている。

 革新機構は銀行の協力も得ながらシャープの液晶事業を分社化し、革新機構が出資する液晶大手ジャパンディスプレイ(JDI)と統合させる考えだ。

 革新機構は、収益性の低さに苦しむ国内電機業界の再編を進める狙いで、シャープと東芝の白物家電事業の統合を促すことも検討している。

■株式放棄 銀行の判断焦点

 革新機構と鴻海の提案の大枠が固まり、今後は主力2行の判断が焦点となる。だが、すんなりとは決着しそうにない。

 「事実上の債権放棄だ」。革新機構に求められた株式の放棄を、主力2行の幹部らはそう受け止める。シャープには配当金の支払いが減るメリットがあっても、2行には株式の価値がなくなって損失が生じる。ある幹部は「簡単にのめる話ではない」と話す。

 革新機構が描くシャープの液晶事業とJDIの統合案も、円滑に進むかわからない。両社は中小型液晶でともに世界的大手。統合後のシェアは、国内外で独占禁止法の審査を通過できるか不透明だからだ。

 鴻海は、2012年にいったんシャープへの出資を約束しながら実行しなかった経緯がある。銀行の警戒感は強い。提案額が本格的な資産査定もせずに示されたことからも、主力行幹部は「本当に出すのか疑念が湧く」という。

  とはいえ、時価総額が2千億円程度に落ち込むシャープに示された破格の買収案には、主力行内部からも「経済合理性からすれば、明らかに鴻海案が魅力的」と の声が漏れる。金額面で劣る革新機構案を受け入れた場合、「株主に説明できない。有利な提案を無視したとして株主に訴訟を起こされる恐れすらある」という 幹部もいる。

 革新機構は今月末に内部委員会を開き、銀行への提案をまとめる見通しだ。交渉は当面、シャープの15年4~12月期決算が発表される2月4日までがヤマ場とみられているが、交渉関係者からは「まとまるか微妙」との声も出ている。