化学・素材各社の設備投資に対する積極的な姿勢が、より鮮明になってきた。大手11社の2018年3月期の設備投資は約1兆2000億円と、1兆円の大台に乗る見通し。好業績が続いた前期を、さらに約2割上回り過去最高に達する。構造改革にめどをつけた三井化学は6割強、三菱ケミカルホールディングス(HD)、信越化学工業、東レ、帝人は2―3割増やし、攻めの経営を加速する。
設備投資に資源を存分に振り向けられるのは、各社が構造改革をほぼ終えたことが背景の一つ。三井化学はウレタン事業で工場再編や事業分離を行い、三菱ケミカルHDは高純度テレフタル酸の不採算地域の事業を売却。また帝人はシンガポールのポリカーボネート生産拠点を閉じた。構造的な赤字事業を整理したことで、収益を下押しする要因が少なくなってきた。
昨年来の好市況も続く。原油価格は低位安定。ここ最近のナフサ安に連動してエチレン市況は弱含んだものの、落ち込むほどではない。ポリオレフィンなど誘導品のアジア市況は比較的高く、為替は海外品が日本に入り込みにくい水準。日本にとって有利な条件が揃ったことで前期は過去最高益が相次ぎ、各社の財務体質は改善。投資に振り向けやすい環境にある。
汎用分野で注目される大型投資案件としては、三菱ケミカルHDによるサウジアラビアにおけるMMAモノマー新工場が今月完成の予定。エチレンを原料に年産25万トンの大型プラントが立ち上がる。信越化学工業は米国にエチレン新工場を建設中。建設要員確保の難しさなどにより、計画通りに工場建設が進まないことが常態化している同国だが、当初予定通り18年半ばの完成を明言している。
成長分野への投資も目立つ。東レ、帝人、三菱ケミカルHDは自動車や航空機などの軽量化に役立つ炭素繊維を増産。旭化成、住友化学、宇部興産は電気自動車などに搭載されるリチウムイオン電池向けセパレーターの供給能力を増やす。住友化学は有機EL(エレクトロルミネッセンス)スマートフォンに用いるフィルム型タッチセンサーの生産を本格化する。
懸念材料は好況故に国内工場が極めて高い水準で操業している点。「設備余力が少なく、次なる新製品の量産技術の確立に着手できない」―。こんなジレンマを耳にする機会が多い。各社にとって国内拠点は革新製品・技術を生み出し、世界に発信する「マザー工場」の役割を担う。研究開発から国内外の製造基盤、成長分野までバランスよく投資を充実させ、持続可能な成長基盤の実現につなげてほしい。
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