シャープが超高精細な画質「8K」に対応した世界初の液晶テレビの販売に乗り出す。まずは10月に中国で発売し、12月には日本でも販売を始める。シャープは8Kを成長戦略の要と位置づけるが、放送局は巨額の設備投資が必要になるため及び腰だ。国内のライバルメーカーは8Kではなく、次世代パネル「有機EL」に力を注ぐ。孤独な戦いに挑むシャープに勝算はあるのか。

 「業界に先駆けて続々と商品を投入し、8Kの市場を切り開いていきたい」

 シャープが東京都内で8月末に開いた8K液晶テレビの発表会。西山博一取締役は市場の開拓に強い意欲を示した。



 8Kはフルハイビジョンの16倍、現行の4Kの4倍という高い解像度を持つ。シャープはすでに業務用の8K対応液晶ディスプレーと受信機を販売しており、8K市場では独走状態を続けている。8Kテレビのいち早い投入には、他社をさらに引き離す狙いもある。

 発表会で、TVシステム事業本部の喜多村和洋副事業本部長は「平成32年度にシャープが世界で販売する(60型以上の)大型テレビの半分を8Kに変える」との計画を明らかにした。

高解像度テレビの需要が大きいとされる中国での販売台数は、日本の10倍となる月2千台程度を見込む。米国も含めて順次、販売地域の拡大も検討するといい、テレビ事業における世界戦略製品と位置づける。

 さらに、シャープは他社との協業などを通じ、8Kの液晶パネルをテレビ以外の医療や防犯といった産業分野にも活用し、収益性を高めるシナリオを描く。32年度には8K関連事業で売上高3千億円超を目指す方針を打ち出している。

とはいえ、8K市場の先行きには不透明感も漂う。

 国内では来年12月に4Kと8Kの実用放送が始まる予定だが、NHKと各民放が参加する4Kに対し、8KはNHKのみ。8Kは4Kよりも大きな設備投資が必要とみられるためだ。その結果、シャープ以外の大手電機メーカーは4Kを主軸に据え、8K市場への参入に二の足を踏んでいる。

 だが、シャープの喜多村副事業本部長は「まだ4Kの実用放送が始まっていないのにも関わらず、4Kテレビは4年ほどで世界のテレビ市場で販売金額の7割を占めた。8Kでも同じことが起こるだろう」と楽観的な見方を示す。

シャープの自信の背景には性能面での優位性もあるようだ。

 サムスン電子やLG電子の韓国勢が市場を占拠し、パナソニックやソニーなどの国内メーカーも自社のテレビへの搭載を始めた有機ELは、従来の4Kテレビより映像が鮮明だが、「8Kの高画質を実現できるのは現時点では液晶だけ」(喜多村副事業本部長)という。

 また、パナソニックやソニーが有機ELパネルを外部調達に頼っているのに対し、シャープは自社で8Kの液晶パネルの開発設計、生産まで一貫してできる強みを持つ。

 ただ、米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)X(テン)」の画面にアイフォーンでは初めて有機ELが採用された。次世代パネルの主役の座をめぐる争いで、有機ELが一段と存在感を増す可能性は大きい。

シャープも有機ELに関する研究開発を続けており、来年にはスマートフォン向けなどの中小型パネルの小規模生産ラインを国内に設ける計画。大型テレビ向けの有機ELパネルの開発も検討している。それでも、「液晶のシャープ」復活を印象づけるには、自らが先鞭をつけた8Kの普及拡大が欠かせない。