日東電工が液晶テレビ向け偏光板事業の変革を進めている。偏光板の生産技術供与などで技術料を稼ぐ事業モデルに転換するほか、中国での生産にも踏み切る。液晶テレビの中核部材である偏光板は同社の柱だったが、価格下落が止まらず、先行きは厳しい。そこで製品を売るだけでなく、虎の子の技術を他社に付与したりするなどして着実に利益を得る。

2017年11月、日東電工は中国杭州市の杭州錦江集団などに偏光板の生産技術を供与する契約を結んだ。期間は最大5年間で、技術料は同150億円になる。また17年春から、偏光板を液晶パネルに高精度に貼り合わせる独自手法の特許も競合他社に供与した。高度な技術を提供し特許料で稼ぐ狙いだ。



さらに生産面では「思い切った決断」(高崎秀雄社長)も行った。中国深セン市に液晶テレビ向け偏光板の新工場の建設に着手しており、18年4月に完成し夏に本格稼働する予定だ。製造ノウハウの塊である偏光板は模倣が難しい。従来は生産拠点をほぼ日本に限定し、偏光板をテレビサイズに裁断する工程だけを現地化してきた。

この方針を転換した背景には技術の陳腐化がある。性能向上が今なお続くスマートフォン向け偏光板は別とし、テレビ向けは差別化が難しいと判断した。中国生産の偏光板は「日本生産と品質は変わらない」(同)と力を込める。

足元では有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)を含むスマホ用ディスプレー向けに、偏光板など高機能フィルムを中心としたオプトロニクス事業が大きく伸びている。ただ、スマホのディスプレー面積はテレビの100分の1と、1台当たりの部材使用量が少なく、売り上げ面での貢献が低い。

フィルムなど機能化学品の専業メーカーの利益率は高いが、売上高は5000億円未満の規模が大半だ。18年3月期に売上高8600億円を見込む日東電工は、例外的な存在と言える。

売上高で1兆円突破の期待がかかる中、売り上げと利益の双方を支えてきたのは、液晶テレビ向け偏光板に他ならない。それを技術料で稼ぐ事業に転換すれば、売り上げの伸びを鈍化させるリスクが生じる。しかし高崎社長は「技術料の収入は、そのまま利益になる」と考え、利益を優先する。

今後の成長を託すのは核酸医薬や車載用部材などの新規事業だが、これらの事業は発展途上にある。そこで偏光板事業では利益を確実に生み出す戦略にシフトし、当面の業績を支えつつ、成長投資を確保して新規事業を育成する構えだ。