スマートグラスは、AR(拡張現実)を具現化する製品として期待されるが、実用化は5~10年先になる見通しだ。一方、5G(第5世代移動通信)の実用化は、スマートグラスより早いと思われる。ただし、5G技術は、かつての携帯電話機のような巨大な消費をもたらすことはないだろう。

 この2つの新興市場への期待は、2018年1月15~18日に米国カリフォルニア州で開催された「Industry Strategy Summit(ISS) 2018」で示された見解によっていささか揺らいだ。 Oculusで半導体、ディスプレイ、センサーの研究を手掛けるJoe O'Keeffe氏は、「スマートグラスは、スマートフォンに代わる次世代コンピューティングプラットフォームになると予想される。しかし、その実現には、半導体技術におけるたくさんの重要なブレークスルーが必要だ」と語った。
なお、Oculusは、Facebookが2014年に買収したVR(仮想現実)ヘッドセットメーカーである。



 O'Keeffe氏は、「将来的には、ARメガネを利用して仮想の人物や物体を見たり、外国語の標識を翻訳するような機械学習に基づいたサービスを提供したりできるようになるだろう。たくさんのガジェットやおもちゃが誕生し、デモが行われると予想されるが、求められるのは『iPhone』のような革新的な製品だ」と述べている。

 同氏は、「スマートグラスは、手や頭部、目の動きを追跡し、ミリワットレベルの消費電力で(機械学習の)推論に基づくサービスをリアルタイムに提供しなければならない。それに必要なコンピュータビジョンと深度センシングは、スマートグラスのフォームファクターでは現時点では実現不可能だ」と述べている。

 こうしたシステムを実現する半導体としては、新しいプロセスノードや複雑なSoC(System on Chip)、低消費電力のニューラルネットワークアクセラレーター、チップ積層技術の改良が必須となる。さらに、スマートグラスには、新たな光学機器やディスプレイ、指向性マイクも必要だ。

 O'Keeffe氏は、「最大の課題は、適切なHMI(Human Machine Interface)の開発だ。ARではまだ、PCのマウスに相当するものが開発されていない」と述べている。