グーグルが同社ブランドのスマートフォン「Pixel(ピクセル)」の開発を担当していた部門を宏達国際電子(HTC)から買収する手続きが30日完了し、これによりグーグルにとって台湾はアジア太平洋地域で最大の研究開発(R&D)拠点になることとなった。マイクロソフト(MS)とアマゾン・ドット・コムも今月、「人工知能(AI)R&Dセンター」と「連合イノベーションセンター」の台湾での開設を発表しており、台湾は米IT(情報技術)業界大手にとってのR&D拠点としての地位をさらに高めることになった。31日付工商時報などが報じた。

 グーグルは今回、HTCの同部門買収に11億米ドルもの巨額の資金を投じたが、それは台湾人エンジニアの能力を高く評価していたためだ。両社は2008年に提携を開始。世界初のアンドロイドOS(基本ソフト)搭載スマートフォン「G1」、両社ダブルブランドのスマホ「Nexus One」、タブレット端末の「Nexus9」、スマホの「Pixel」「Pixel2」を共同開発してきた。HTCの部門買収によってグーグルの台湾のR&D人員は一挙に2,000人増加する。



 グーグルの台湾のR&D組織は06年に発足。「マップ」「カレンダー」「アンドロイド」「クローム」などのサービスの開発とメンテナンスに全て関わってきた。グーグルの親会社、アルファベットが買収したスマートホーム企業「Nest(ネスト)」も台湾にR&Dチームを置いている。

 グーグルハードウエア事業のシニアバイスプレジデント、リック・オステロー氏はHTCの開発部門買収について、「当社製品のイノベーションにとってプラスになる」と公式サイトで表明した。そして、ハード分野を同社の核心的競争力に育てるとともに、HTCから買収したR&D人材をグーグルのAI技術およびソフト・ハード開発に導入し、ユーザーエクスペリエンスをさらに改善する製品を開発するとの考えを示した。

 第5世代移動通信システム(5G)が20年に商用化を控え、VR(仮想現実、バーチャルリアリティー)、AR(拡張現実)技術が成熟化する中、スマートホームや360度カメラ、VRディスプレイ、モノのインターネット(IoT)など、スマホとスマートスピーカーを核心基盤とした新たな技術が次々に生まれている。こうした中、市場では、台湾はハイテクサプライチェーンの集積効果もあり、台湾人R&Dチームは、グーグルのハード開発でさらに重要な役割を果たすとみている。

 米IT大手ではMSが今月10日、台湾に100人規模のAIのR&Dセンターを設置し、今後2年間で10億台湾元(約37億円)を投じる計画を発表している。同社はその際、「世界レベルの人材と世界一のハードウエア製造力を持つ」と台湾を選択した理由を説明していた。

 アマゾンも翌11日、クラウドコンピューティング関連の技術や人材の育成を図り、企業のスタートアップを支援する拠点の新北市板橋区への設置を発表しており、グーグル、MS、アマゾンの米IT業界の3巨人が台湾での開発強化で歩調を合わせることが印象付けられた。

 HTCの王雪紅董事長は売却手続き完了に当たり、「今後は自社ブランドスマホとVRシステム『HTC Vive』で引き続きイノベーションをリードし、新たな1ページを開く」と強気に表明した。同社は受託部門売却によって、第1四半期中に11億米ドルの売却益を掌中にし、これによって今年は黒字転換する見通しだ。

 同社は15年第2四半期から赤字が続いており、昨年末までの累計赤字額は300億元以上に上っていた。昨年第3四半期末時点での現金残高は230億元で、あと2年間しか持ちこたえられない計算だったが、グーグルからの11億米ドルの入金によってさらに3年間「延命」できることになった。獲得した資金は、次世代スマホの旗艦機種や、VR、AR、IoT、AIなどの分野に投じるとしている。

 HTCはスマホR&Dで最高責任者を務めていた陳文俊営運長(COO)が離職し、グーグルに移籍することも併せて発表した。今回の受託部門売却で、グーグルに移った元HTC従業員は、勤務地は新北市新店区のHTC本社で変わらないまま、収入が最高で年間約100万元増えるという。