「現在、10万台のロボットが稼働している。無人工場を実現する段階に入った」

 台湾メディアが1月14日、ある経営者の講演会での発言を伝えた。郭台銘(テリー・ゴウ)氏。世界最大のEMS(電子機器の受託製造サービス)企業、鴻海(ホンハイ)精密工業の董事長だ。自ら日本に乗り込み、買収交渉を取り仕切り、16年にシャープを手に入れた、あの男だ。

ホンハイは今、事業構造モデルの転換を急ぐ。売り上げの5割強を占める米アップルのスマートフォン(スマホ)「iPhone」の販売が苦戦しているからだ。iPhoneの生産拠点となっている中国・河南省の工場で人員削減を進めているとも伝わる。



 iPhoneの販売不振だけが人員調整の要因ではない。経済成長で豊かさを増す中国の人件費は上がり続けている。30年ほど前に中国大陸に進出し、各地で巨大工場を構え、低賃金の安さを武器に成長を続けてきたホンハイ。その強みが揺らぐ。

 危機感は強い。100万人の従業員の多くが、組み立てなど単純労働を担うだけに、低賃金モデルから脱却しなければ、いずれ行き詰まる。工場の自動化を進め、人に頼らない工場を作ることは悲願だった。

 ただ、無人工場の実現は郭氏が思う通りには進んでいないようだ。

 「ロボットを100万台導入して自動化を進める」。中国・上海でこう宣言したのは12年。100万台に達する時期を当時、明かさなかったが、今でも導入規模が10万台という現実に満足はしていないだろう。

 台湾紙は、ホンハイが2月の春節(旧正月)明けにインドに調査団を派遣し、現地でiPhoneを生産する可能性を探ると伝えている。郭氏も同行する見通しだが、単純に賃金が安いところで工場を建てれば済むわけではない。

 だからこそ、ホンハイは工場の自動化に力を入れるが、小さな部品を扱う組み立て工程ほど、自動化は難しい。日経ビジネスの1月28日号特集「製造リショアリング」で触れたとおり、早くから国内で省力化投資を続け、生産性に磨きをかけてきた日本勢の強みが生きるときかもしれない。