QD-OLEDサムスンは13年6月に有機ELテレビを発売、韓国や米国市場に投入したが振るわなかった。結局2014年5月に有機ELテレビへの投資を中断しそれ以降有機ELテレビの発売も止めた
サムスンが「大画面有機ELパネルの大規模量産をなかなか実現できなかった」理由は、有機EL素子のカラー化方式に有機EL本来のRGB発光素子を採用していたからだ。この方式の大型テレビパネルの生産は極めて難しく歩留まりが向上せず製品単価も高くなってしまっていた。

一方のLG電子も13年に有機ELテレビを発売したが、同年の有機ELテレビの市場規模は4400台にとどまっていた。
しかしLGが採用した白色発光素子にカラーフィルターを組み合わせる方式は歩留まり改善の余地があり時間はかかったものの成功し、昨年は290万台の生産に成功している。しかしサムスンは同方式は本来の有機EL技術では無いという批判をずっと続けていた。

苦節5年、そんなサムスンがついに大型テレビに新方式の有機ELパネルQD-OLED(図)採用を目指し巨大投資を行うと発表した



有機ELテレビは日本の家電量販店の目立つ棚に多数並んでいるため勘違いしがちだが、世界的なテレビの販売数量シェアはようやく1%を超え今年1.3%となる見込みに過ぎない。具体的には今年の見通しとして液晶テレビは2億8130万台で有機ELテレビは370万台だ。
ブランド別に見ると概算だがLG電子が180万台、ソニーが60万台、パナソニックが30万台、フィリップスが20万台の販売数だ。有機EL最大需要ブランドのLG電子にしても液晶テレビを有機ELテレビの約14倍の2500万台売っている。
今後数年のトレンドを見ても有機ELのシェアは楽観的に見て2024年に5%に届くか届かないかで液晶テレビの数量の圧倒的な優位性は崩れない。

サムスンは液晶テレビ一本で4200万台売っている。しかしマーケッティング戦略として高級ゾーンのネーミングをQLEDとしていて、一般消費者にはそれが液晶テレビなのかどうか分からないように売っている。QDOTシートという特殊な光学シートを介しているが列記とした液晶テレビだ。画質はほとんど有機ELと僅差のため大消費地の北米や欧州ではLGの有機ELより売れている。グローバルに見ても合計600万台と有機ELテレビを上回っている。なお日本では全く売っていない。

サムスンの読みはこうだろう。今のままでもそれなりに液晶テレビ(QLED含む)は売れる、しかし中国液晶メーカーの生産能力はこれから大きく向上する、ならば自社の液晶生産数は最低限に抑えて必要ならば中国液晶メーカーから調達すればよい。その代わりに性能で有機ELを凌駕するQD-OLEDを立ち上げる。サムスンにとってはQD-OLEDは失敗しても事業全体としてリスクは少ない。

前に書いたようにサムスンは有機ELテレビで失敗している。今回巨大投資をするという宣言はLGの有機ELに目を向けていた材料メーカー・機器メーカーに期待を抱かせ自分たちにも目を向かせることを考えたものだろうが、コスト・輝度・寿命とまだまだ開発確認要素が山のようにある技術だ。また液晶陣営もまだまだ性能を上げてくる。
サムスン自身、勝算有りと判るまで相当の時間を要するはずだ。彼らにに振り回されないように注意深く対応してゆくべきなのだろう。