DSXMZO5269781027112019TJ1001-PB1-2有機ELパネルメーカーのJOLED(ジェイオーレッド)が、初の量産ラインを完成させた。モニターや車載用のパネルを作る。独自の製法によりコスト面などで韓国勢などに対抗する戦略だが、良品率はまだ低いとみられ、強みを発揮できるかどうかは不透明だ。経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)と並ぶ、もう一つの国策パネル会社も多難な船出を迎えた。

「印刷方式で世界初の量産ラインが完成した」。JOLEDの石橋義社長は、能美事業所(石川県能美市)で開いた式典で強調した。同事業所はJDIの液晶パネル工場だったのを改造した。130センチ×150センチのパネル基板を月に約2万枚処理できる。これまでは試作ラインしかなかった。





有機ELパネルの開発は日本企業がリードし、07年にはソニーが世界初の有機ELテレビを発売した。ただ、事業で成功したのは巨額の投資を進めた韓国勢だ。今では世界シェアの大半を握る。挽回に向け、経済産業省の肝煎りでパナソニックとソニーの有機EL事業を統合して15年に誕生したのがJOLEDだ。

韓国勢に対する切り札が印刷方式だ。発光材料をインクジェットプリンターのような装置でパネルの基板に塗り分ける。既存の蒸着方式は、真空中で発光材料を気化し、マスクと呼ぶ高価な部材を使って付着させる。印刷方式の方が簡単な生産設備で済むため「コストを削減でき、多品種対応もできる」(山本富章・常務執行役員)。

当面は医療用などのモニター向けにパネルを販売する。試作ラインで作ったパネルはソニーや台湾の華碩電脳(エイスース)、EIZOに供給してきた。

韓国のLGディスプレーが圧倒的な生産能力を持つテレビ向けは、海外メーカーに印刷方式の技術供与で手数料を稼ぐモデルを模索する。中国のパネル大手などと交渉しているとみられる。

19年3月期の売上高は14億円にすぎない。研究開発費などのコストが先行し、最終損益は259億円の赤字だった。量産ラインの稼働でようやく事業が本格化する。

だが、課題は山積みだ。最大の問題は、印刷方式の強みであるコスト競争力を発揮できるかがわからないことだ。試作ラインで作ったパネルを使ったモニターの市販価格は数十万円で、安いとはいえない。

量産が軌道に乗ればコストは蒸着方式に比べ2~3割安くなるという試算もある。実現には「良品率は8割以上のラインが珍しくない韓国勢に比べまだまだ低い」(業界関係者)とされる現状の改善が不可欠だ。材料の組み合わせや製造装置の使い方など、多くの変数を調整しては効果を確認する地道な作業が続く。

製品の品質もまだ評価が定まっていない。米調査会社DSCCの田村喜男アジア代表は印刷方式で作った有機ELパネルについて「画面の明るさと寿命の両立が課題だ」と指摘する。有機ELは液晶に比べ色の鮮やかさやパネルの形状を変えやすいメリットがある一方、製品寿命などに課題が残る。特に印刷方式は蒸着方式に比べ弱点が出やすいという。

このため、顧客の確保もまだ不十分だ。JOLEDはモニター向けに加え、成長が見込まれる車向けパネルの市場を狙う。トヨタ自動車が今年の東京モーターショーで発表したコンセプトカー「LQ」で採用するなど明るい材料はあるが量は限られる。

厳しい状況を映し、設備投資などに使う資金集めにも難航してきたが、この点はヤマを越えたようだ。このほど「金融機関の支援で(目標の1千億円に)近い金額が集まった」(JOLED)。

英調査会社IHSマークイットによれば、有機ELパネル市場は25年に485億ドル(約5.2兆円)と18年の2.1倍に拡大する。成長を見込み、中国勢も政府の補助金を得ながら巨額の投資を進めている。JOLEDは競争のなかで売り先を確保できなければ固定費が重くのしかかることになる。量産ラインの完成は正念場の始まりといえる。

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